| 第三十一話 |
| 「酷いよ、ハボックちゃん、あんまりだ……」 ガックリとソファーに座り込んでヒューズがぐじぐじとボヤく。慰めるように寄り添ってハボックが俯いた顔を覗き込んだ。 「ろーいー」 相変わらず自分以外の名で呼びかけられてヒューズは恨めしそうにハボックをチラリと見る。はああ、と大きなため息をついて、ヒューズは言った。 「せめて“まーす”とか言ってくれればなぁ」 ろーいじゃねぇ、と肩を落とすヒューズにハボックが困り切ったように眉を寄せる。暫くの間ヒューズの横顔を見ていたが、トンとソファーから飛び降りるとリビングから出て行ってしまった。 「あっ、ハボックちゃんっ?」 慌ててヒューズが呼んだがハボックは戻ってこない。益々ガックリとソファーにへたり込むヒューズの前にコーヒーのカップを置いてロイが言った。 「あんまりグズグズ言うから愛想つかされたんじゃないか?」 「お前にゃ俺の気持ちは判らん。ハボックちゃんを独り占めしやがって」 俺だって名前呼ばれてすりすりされたい!と喚く友人にロイはやれやれとため息をつく。コーヒーのカップを手に取り口をつければ、ハボックがシャツの裾を持ち上げた中に何やら入れて戻ってきた。 「何を持ってきたんだ?ハボック」 ロイがそう尋ねれば、ハボックがシャツの中身をテーブルの上に空ける。コロコロとテーブルから転がり落ちそうになった綺麗な小石を受け止めて、ロイは言った。 「ああ、今回の旅で見つけた宝物か」 受け止めた小石は湖の畔で拾ったものだ。光に翳して見るロイの手の中の小石を、ヒューズは不思議そうに見た。 「なんだ?旅の宝物って」 「ハボックが旅行中に集めてきた物だよ」 そう言うロイの手からハボックは縁が虹色に透ける小石を取り返す。それを小さな手のひらに載せてヒューズに差し出した。 「ろーい」 「えっ?なに?ハボックちゃん」 ヒューズはよく判らないとハボックと小石を見比べる。そうすればハボックがヒューズの手を取って小石を押し付けた。 「やると言ってるんだ」 「へ?そうなの?」 ロイにそう言われてヒューズはハボックを見る。ハボックはニコッと笑ってヒューズの手の上に小石を落とした。 「いいのか?ハボック。それは集めた小石の中でも一番のお気に入りだろう?」 「ろーい!」 「いいらしいぞ。凄いお土産だな」 そう言うロイとにこにこと笑みを浮かべるハボックとをヒューズは見つめる。手の中の小石をギュッと握り締めてヒューズはウルウルと目を潤ませた。 「ありがとうっ、ハボックちゃん!大事にするよ!」 「ろーい」 嬉しそうなヒューズの前で、ハボックは他の宝物を並べて見せる。 「ろーいっ」 ハボックはそう言ってオレンジ色のウキを指差す。見上げてくる空色とウキを見て、ヒューズは言った。 「そうか、釣りをしたんだな。デカい魚が釣れたかい?」 「ろーい!」 「湖でボートに乗って釣りをしたんだ。ハボックが釣った魚が一番デカかった」 「へぇ、凄いじゃないか、ハボックちゃん」 「ろいっ」 褒められてハボックがエヘンと胸を反らせる。 「これは……パラシュート?」 ヒューズがそう言って小さなパラシュートを摘めば、ハボックがそれを受け取ってポンと放り投げた。 「ろーいっ、ろーい!」 「噴水の花火をしたら最後にこれが飛び出たんだ」 「そうか、綺麗だったかい?」 「ろーい〜〜っ!」 身振り手振りでハボックが話すのにロイが説明を付け足す。そうやって二人が説明するのをヒューズは楽しんで聞いたのだった。 2012/10/26 |
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