第三十二話


「ハボック、そろそろ行くぞ!」
 ロイは階段の下から二階に向かって声をかける。そうすればハボックが階段の上から顔を覗かせた。
「ろーいー」
 困ったように眉を寄せるハボックを見て、ロイは階段を上がる。寝室に消えたハボックの後を追って中に入れば、ハボックが床に並べた宝物を前に床に座り込んでいた。
「ろーいー」
「ハボック、全部持って行きたい気持ちは判らないでもないが、一つにしなさい」
 そう言えばハボックがムゥと唇を突き出す。それでもそれ以上何も言わずに見つめていると、ハボックは一つため息をついて並べた宝物の中からオレンジ色のウキを取り上げた。
「ろい」
「それにするのか?」
 手にしたウキを見せるハボックにロイが尋ねればハボックがコクンと頷く。それから名残惜しそうに床の宝物に目をやり、中から小さな貝殻を一つ取り上げてロイに見せた。
「……ろーい?」
 甘えるように小首を傾げるハボックにロイは苦笑する。
「仕方ないな、それだけだぞ」
 そう答えればハボックが嬉しそうに笑った。
「決まったら早く支度しなさい。列車に遅れるぞ」
 ロイの言葉にハボックはわたわたと宝物を箱にしまう。その間にロイは下に降りると、ウキと貝殻を鞄にしまった。
「ハボック!」
 鞄を手に持ち玄関に行きながらハボックを呼ぶ。コートに腕を通しているとハボックがパタパタと駆けてきた。
「ほら、お前もこれを着て」
 そう言いながらロイはハボックに小さな上着を着せてやる。ちょっぴり着膨れした姿にクスリと笑って、ロイはハボックの金髪をクシャリと掻き混ぜた。
「よし、行くぞ」
 ロイはそう言ってハボックの手を引く。二人は手を繋いで駅へと歩いていった。


 列車の中では上機嫌で窓に貼り付いて外を眺めていたハボックだったが、目的地についた途端ロイにべったりとしがみつく。どうやら人の多さに驚いたようで、ハボックはその空色の瞳をまん丸にして当たりを見回していた。
「大丈夫だよ、ハボック。相変わらず騒々しい街だが、もうすぐ迎えにくる男には似つかわしい街だろう」
「ろーい……」
 呟くように呼んでハボックはロイを見上げる。その顔が嫌そうにしかめられるのを見て、ロイは苦笑した。
「似合わないか?」
「……ろーい」
 ハボックが不満そうに頷いて見つめるロイはサングラスをかけている。特徴的な黒曜石を色硝子の奥に隠したロイは苛々と辺りを見回した。
「遅いな、なにやってるんだ、あの馬鹿者は」
 チッと思い切り舌打ちしてロイが呟いた時、すぐ目の前に車が滑るように停まった。
「待たせたな」
「遅いぞ、ヒューズ」
 窓からニヤリと覗く常盤色をロイは睨んだがそれ以上は何も言わずに後部座席の扉を開ける。鞄を放り入れハボックを押し込むと、乗り込みながら扉を閉めた。
「早く出せ」
「大丈夫だって、ロイ。幾ら軍の連中だってまさかあのロイ・マスタングがセントラルにいるとは思わないさ」
 ヒューズは普段はかけないサングラスをしている友人に苦笑して言う。それでも用心してか座席に潜るように座るロイに僅かに眉を寄せると、殊更明るくハボックに話しかけた。
「ハボックちゃん、よく来たね!エリシアちゃんもハボックちゃんが来るの待ってるよ」
「ろーいっ」
 ハンドルを握るヒューズの座席に後ろからしがみついてハボックが答える。元気な声にヒューズは笑みを浮かべて言った。
「窓から外を見てごらん。ハロウィンの飾り付けが凄いだろ?」
 そう言われて窓から外を見れば、店先やショーウィンドウが黒とオレンジのハロウィンカラーで飾られていて、ハボックは魔女やカボチャの飾りを目をまん丸にして見つめた。
「我が家にもでっかいカボチャがあるから楽しみにしててね、ハボックちゃん」
「ろーいっ!」
 キラキラと目を輝かせて頷いたハボックが嬉しそうにロイを見る。ロイはそんなハボックの頭を撫でると、窓の外を流れるセントラルの街並みをじっと見つめた。


2012/10/28


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