| 第三話 |
| 「──── ハボック」 懐かしい空色の瞳に見つめられて、ロイは掠れた声で小さな男の子の姿になった毛糸玉を呼ぶ。すると、ハボックが小さく震えたと思うと、ポンとまた毛糸玉に戻ってしまった。床の上をサーッと滑って毛糸玉は棚の後ろに潜ってしまう。ポカンとしてそれを見ていたロイはハッとして棚に飛びついた。 「何故だッ?おいっ、ハボック!どうしたんだッ?!」 もう一度会えたと感動する間もなく、再び毛糸玉に戻って棚の後ろに隠れてしまったハボックに、ロイは隙間に顔を突っ込まんばかりにこすりつけて怒鳴る。何度呼んでも出てこないハボックに、ロイはため息をついて棚から離れた。 「…………もしかして怒っているのか?お前を置いて屋敷を出てしまったことを。お前を ──── 守ってやれなかったことを」 ロイとしてはハボックを守ろうとしての行動だった。だが、ハボックからしてみれば捨てられたと思っても不思議はないかもしれなかった。 「そうか……そうだな。そう思うのが普通だな」 ロイはそう呟いてドサリと椅子に腰を下ろす。力が抜けてしまったように椅子に沈み込んでいると、毛糸玉が棚の後ろから顔を出した。毛糸玉はススス、スススと床を行ったりきたりする。時折小さく縮こまって震える様子を見ていたロイは、ふと浮かんだ考えに眉を寄せた。 「ハボック、お前────もしかして、恥ずかしがってるのか?」 そう尋ねれば毛糸玉がポンと跳ねて子供の姿になる。タタタと駆けてカーテンの陰に飛び込んだハボックの、カーテンからはみ出た尻尾がクルンと内巻きに巻いているのを目を見開いて見つめていたロイは、ゆっくりと立ち上がった。 「ハボック」 そう呼びかけながら近づき、カーテンをめくる。そうすれば恥ずかしそうに見上げてくるハボックと目が合った。 「おいで」 にっこりと笑って言えば、ハボックが腕を伸ばしてくる。その手を引き寄せて、ロイはハボックを抱き上げた。 「おかえり、ハボック……もう一度会えて、本当に嬉しいよ」 目を細めてそう告げれば。 「ろーい」 ハボックが答えてロイの首にしがみついた。きゅううと精一杯の力でしがみついてくるハボックを抱いて、ロイは窓辺に近づく。すると真夏の光をすり抜けるようにして爽やかな風が吹いてきた。 「ハボック」 ポンポンと背中を叩いて呼ぶと、ハボックが顔を上げる。ロイの視線に促されるように、窓の外へと空色の視線を向けた。 「ろーいー」 空の色を映す瞳で雲を見上げ、にこにことロイに笑いかける。そんな様を見ているだけでうんざりするようだった暑さも気にならなくなってくるから、人間なんて勝手なものだとロイは苦笑した。 「ろーい?」 「なんでもないよ、ハボック」 ロイはそう言って笑うと、嬉しそうに夏の青空を見上げた。 2012/08/11 |
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