第二十五話


「ん」
 プカリと意識が浮かび上がってロイは目を開ける。シェードの隙間から入り込んだ陽射しが丁度顔に当たって、もういい加減起きろと言っているようだった。
「もうこんな時間か」
 ロイは枕の下から引っ張り出した懐中時計を見て呟く。結局半日寝倒してしまったが、特に計画があるわけでなく無駄に過ごした気にはならなかった。
「腹が減った……」
 とはいえ流石に空腹を覚えてロイは体を起こす。傍らを見ればハボックがすぴすぴと鼻を鳴らして惰眠を貪っていた。その寝顔を見ればロイの顔に自然と笑みが浮かぶ。額にかかる金髪を払ってやると、ロイはハボックを起こさないようにそっとベッドから抜け出した。
「んー」
 思い切り伸びをしてロイはコキコキと首を鳴らす。これだけ寝たにもかかわらず大きな欠伸をしながら階下へと下りた。
「卵でいいか」
 とりあえず空腹を満たせればなんでもいい。ロイはフライパンにベーコンを載せると油が出てきたところで卵を落とし、蓋をして蒸し焼きにする間に顔を洗った。タオルで顔を拭きながら卵の焼け具合を確認し、皿に移す。コーンフレークを皿に出し牛乳をかけると、ベーコンエッグの皿と一緒にリビングに運んだ。ロイはソファーに腰を下ろし配達を頼んでおいた新聞を読みながらコーンフレークを口に運ぶ。のんびりと昼食にも遅い食事を取っていれば、悲鳴に近い呼び声が聞こえてバンッと寝室の扉が開く音がした。
「ろーいッ!」
「ハボック?」
 パタパタと軽い足音がしたと思うと、ハボックが二階からの急な階段を駆け下りてくる。あんまり急ぎすぎてズルッと足を滑らすのを見て、ロイはギョッとして腰を浮かした。
「ハボック!」
 そのまま落ちるかと思った体はパッと黒い毛糸玉に姿を変える。ポンポンと跳ねて一階まで下りたと思うと、再び子供の姿になってロイの胸に飛び込んできた。
「ろーい〜ッ!」
「ハボック」
 ロイは飛びついてきたハボックを受け止めて浮かしていた腰をぽすんとソファーに戻す。半泣きになってしがみついてくるハボックを驚いて見下ろしたロイはクスリと笑って言った。
「どうした、私ならここにいるぞ」
 どうやら目が覚めた時にロイがいなくなっていてびっくりしたらしい。さっきはぐれて迷子になったショックがまだ尾を引いているらしいハボックの背を、ポンポンと叩いてロイは言った。
「まったく、飛び出していなくなったのはお前の方だぞ」
「ろーい〜」
 苦笑して言うロイにハボックが唇を尖らせてロイを見る。背を叩いていた手にフサフサとしたものが触れて、ハボックの背を覗き込むようにして尻尾が生えているのを見たロイはやれやれとため息をついた。
「大丈夫、ちゃんと一緒にいるだろう?」
 そう言って金色の頭を撫でてやるとハボックが安心したように目を細める。漸く落ち着いてきたらしいハボックを膝から下ろしたロイが食べかけの食事に手を伸ばせば、ハボックはソファーに寝そべってゴロゴロとロイの膝に懐いた。
「ろーい」
 甘えるように頬を擦り付けてくるハボックにロイは笑みを浮かべると、新聞を片手に食事を続けたのだった。


2012/09/21


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