| 第二十一話 |
| 「まずはちゃんとした道に戻ろう」 ろーいと叫んで道から逸れていってしまった男の子を追いかけて林の中に分け入ってしまったから、今二人は木々の間に立っている。確かこっちから来た筈と、ジョーイは男の子の手を引いて歩いた。 (それにしてもすっごいリアルなカチューシャだなぁ) ジョーイは傍らで揺れるウサギの耳を見ながら思う。空色の生地で出来たカチューシャに生えた耳は彼の金髪とそっくりの質感で作り物には見えず、とても可愛かった。じっと見つめる視線を感じたのか、顔を上げた男の子に見つめ返されて、ジョーイは紅くなって言った。 「あっ、あのさっ、そのカチューシャ、可愛いなっ!すっごいリアルだし!」 ジョーイがそう言うと男の子が空色の目を見開く。その瞳がニコォと笑うのを見れば、ジョーイの心臓が飛び上がった。 (かっ、可愛いッ) 顔を真っ赤にしてジョーイは俯く。チラリと見れば見上げてくる男の子が笑いかけてきて、ジョーイは熟れたトマトのように真っ赤っかになった。 「……なあ、お前、名前なんて言うの?」 無性に名前が知りたくなってジョーイは尋ねる。 「俺はジョーイ。お前は?」 さっきも名乗ったがもしかして忘れてしまってるかもと、ジョーイは自分の名を繰り返して男の子を見た。名前を呼んで欲しくて名前を呼びたくて、ジョーイは足を止めて男の子からの返事を待つ。だが、男の子は困ったように俯くと手にした薄をふりふりと振った。 「……ろーい」 「ッ、だからっ、それはお前のお父さんの名前だろッ!」 何度聞いても「ろーい」としか言わない男の子に、ジョーイはカッとなって声を張り上げてしまう。そうすれば空色の瞳に涙が盛り上がって、男の子はまた泣き出してしまった。 「あっ、ご、ごめんッ!」 ジョーイは慌てて手を振り回す。どうしようと焦りまくったジョーイは振り回していた手で男の子をギュッと抱き締めた。 「ごめん、ローイに早く会いたいんだもんなッ!お父さんとはぐれちゃったら……不安だよな」 ローイと言うのが父親なのか、はっきり聞いてはいないが恐らくはそうなのだろう。まだ小さくて「パパ」と呼べずに「ろーい」と呼んでいるのだと思えば、ジョーイは迷子の男の子が可哀想になって抱き締める手に力を込めた。 「ろぉいッ」 「あ、ごめん」 力を入れすぎて苦しそうにもがく男の子にジョーイは慌てて手を緩める。ホッと息をつく男の子のウサギ耳を見てジョーイは言った。 「あのさぁ、お前のことラビって呼んでいい?」 そう言えば男の子がキョトンとしてジョーイを見る。 「名前ないと呼びづらいしさっ、ほら、カチューシャがウサギだしっ」 と、ジョーイは必死に言い募ったが男の子はどこか不満そうだ。 「とにかく、お前の名前はラビ!いいなっ、ラビ!」 名前で呼ぶと何だか急に仲良くなった気がしてくる。 「よし、じゃあローイを探しに行くぞ、ラビ!」 ジョーイは上機嫌でそう言うと、勝手にラビと名付けた男の子の手を引いて再び歩き出した。 2012/09/13 |
| → 第二十二話 |