| 第十五話 |
| ロイは読んでいた本から顔をあげると向かいに座るハボックを見る。窓枠にしがみつくようにして外を眺めるハボックの姿を見れば自然と唇に笑みが浮かんだ。 窓の外を流れる景色は建物が建ち並ぶ街中から田畑や林が広がる郊外の風景へと変わっていた。そんな田舎の風景もハボックには目新しいらしく、かじりつくようにして一時も目を離そうとしない。 「ハボック――ハーボック」 一度呼んだくらいではロイの方を見もしないハボックを、わざとロイが繰り返し呼んでみればハボックがロイをチラリと見た。その様がいかにも迷惑そうで、ロイは笑いを噛み殺して尋ねる。 「なにか面白いものが見えるか?」 「ろぉいッ」 勿論だと言いたげに力一杯頷いてハボックはすぐさま視線を窓の外に戻した。堪えきれずにクスクスと笑ったロイは、前方から近づいてきた林を指差して言う。 「ほら、林が見えてきたろう?あれを過ぎるともっと面白いものが見えてくるぞ」 そう言うロイをハボックが尋ねるように見る。だが黙って見ていろとでも言うように口を閉ざしたままのロイを見て、ハボックは視線を外へと戻した。 窓のすぐ外を緑の葉が生い茂った木々が流れていく。微妙に色合いの違う林の木々が途切れたと思った次の瞬間。 「 」 青い空の下に広がる大きな湖の湖面。太陽の光を反射してキラキラと輝くそれに、ハボックは言葉もなく息を飲んだ。 「どうだ?凄いだろう?このあたりで一番大きな湖なんだ」 まるで我がもののように自慢げに言うロイの声も聞こえているのかどうか。ハボックは空色の瞳をまん丸に見開いて湖を見つめている。ポカンと開いたままの唇がハボックの驚きの大きさを物語っていて、ロイは満足げな笑みを浮かべた。 「私達は今からあの湖に行くんだ、ハボック」 ロイがそう言えば今まで身動き一つしなかったハボックが弾かれたようにロイを見る。空色の瞳がじっと見つめてくるのを感じながら、ロイは窓の外を見て言った。 「あそこでは釣りも出来るし泳ぎも出来る。確かボートもあったな。きっと凄く楽しいぞ」 ロイは視線を戻してハボックを見るとにっこりと笑って頷く。そうすればハボックの顔が輝いて笑みに崩れた。 「ろーいッ!」 そう叫んで胸に飛び込んでくる小さな体をロイはしっかりと受け止める。 「ろーいっ、ろーいッ!」 「ははは、ハボック、判った、判ったから」 “ありがとう”と“嬉しい”と“早く行きたい”と、色んな気持ちを「ろーい」という一つの言葉にいっぱい込めて叫ぶハボックの背をポンポンと叩きながらロイは笑った。 「ろーい」 ハボックは笑みを浮かべたロイの頬に滑らかな己のそれを擦り付けて、吐息のようにロイを呼ぶ。それを聞けば胸に暖かいものが広がって、ロイは柔らかな金髪に顔を埋めてハボックを強く抱き締めた。 「もっと見なくていいのか?ほら、ボートが浮かんでるぞ」 照れ隠しのようにロイが言うとハボックが顔を上げて外を見る。ワクワクと期待に顔を輝かせて湖を見つめるハボックを乗せて、汽車は楽しいバカンスが待つ地へと走っていった。 2012/08/26 |
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