第十四話


「ここから汽車に乗るんだ」
 ロイは家から十五分程歩いて辿り着いた駅を前にして言う。人通りが多くなってからはロイにぴったりとくっついていたハボックは、目の前の駅舎を空色の瞳を丸くして見上げた。
「行くぞ」
 クイと手を引かれてハボックは駅舎を見上げたまま歩き出す。改札を抜けてホームに出れば丸くなっていたハボックの瞳はこれ以上ないという程見開かれた。
「ハボック」
 ポカンとして汽車を見上げるハボックの表情を見てロイがクスリと笑う。ロイが呼んだのも気づかないハボックの目の前で、ロイが手をヒラヒラとさせれば小さい体がピクンと震えてロイを見た。
「汽車と言うんだ。これに乗って行くぞ」
 そう言うロイをハボックは見て、また汽車を見る。ハアとため息をついて放心したように汽車を見つめるハボックの手をロイが引いた。
「乗るぞ」
 その言葉にびっくり(まなこ)のハボックがロイを見つめて汽車を指差す。それにロイが頷けば、ハボックの顔がパアッと輝いた。
「ろーいっ」
 ロイの手を引っ張るようにして入口に向かうハボックにロイは笑みを浮かべる。乗ろうとすれば丁度同じように乗ろうとして向こうから走ってきたハボックより少し大きい男の子とかち合って、ハボックはロイの腰にしがみついた。
「……お前も乗んの?」
 ハボックをじっと見つめてそう尋ねてくる男の子に、ハボックはロイの陰に隠れてしまう。そうすればロイがハボックの金髪をくしゃりとかき混ぜて言った。
「そうだよ」
 ロイが言うのを聞いて男の子は顔を赤らめて「ふうん」と呟くと汽車に乗ってしまう。その後に続くようにしてロイに手を引かれて汽車に乗り込んだハボックは左右に並ぶ座席をキョロキョロと見回した。
「ここにしよう、ハボック」
 ロイの声が聞こえて、ハボックは中程の座席に腰を下ろす。ロイが網棚にトランクを上げている間に、ハボックは窓に近づくと外を覗いた。
 駅のホームには荷物を片手に汽車に乗り込もうとする人や見送りの人が溢れている。そんな人々を目を大きくして見ているハボックの頭をロイはポンポンと叩いた。
「ろーい」
「もうすぐ出発だ」
 ロイはそう言ってハボックの向かいに腰を下ろす。物珍しそうに行き交う人々を眺めるハボックにロイが笑みを浮かべた時、発車を知らせるベルが鳴り響いた。それに答えるように汽車がポッポーと汽笛を鳴らす。その大きな音にびっくりして飛び上がったハボックは、ガタンと汽車が動き出したのに仰天してロイの胸に飛び込んだ。
「ろーいッ」
 ロイの胸に顔を押し付けてギュッとしがみつくハボックの背をロイが優しく撫でてやる。落ち着かせるように何度も撫でながらロイは言った。
「大丈夫だ、ハボック。怖くないから窓の外を見てごらん」
 優しく囁く声にハボックはおずおずと顔を上げる。ロイを見上げれば笑って頷くのを見て、ハボックは窓の外へと視線を向けた。そうすれば。
 ゆっくりと駅を離れた汽車の窓の外を家や木や車や人が後ろへと流れていく。次々と変わる景色をハボックは目をまん丸にして見つめた。
「ろーいッ!」
 興奮に声を弾ませてハボックはロイを呼んでその胸にしがみつく。どんどんと汽車がスピードを上げるにつれて飛ぶように流れていく景色を、ハボックは目を輝かせて見つめた。
「ろーい!」
「うん、凄いな、ハボック」
 ガタゴトと汽車に揺られながら、ハボックはロイと一緒に移りゆく景色を楽しんだ。


2012/08/24


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