| 第十二話 |
| 「……ハボック」 床に寝そべってオルゴールを眺めながらふんふんと調子っぱずれの鼻歌を歌うハボックを、ロイは眉間に皺を寄せて見つめる。なんだと振り向く空色に見つめ返されて、ロイはため息をついた。 先日、家にやってきたヒューズにハボックと二人がかりでワンピースを出せと喚かれて、あまりの煩さにキレたロイがワンピースを燃やそうとする騒ぎになった。だが、発火布を嵌め今にも燃やさんばかりに手をつきだしたロイは結局ワンピースを燃やせなかった。 『ろーいッ!』 ロイがワンピースを燃やしてしまうとショックを受けたハボックがボロボロと泣き出してしまったからだ。小さいハボックに肩を震わせて泣かれ、その上ヒューズに酷い男だと責められて、ロイはハボックにワンピースを渡してしまった。そして今、ロイはワンピースを渡してしまった事を激しく後悔している。 背中に沢山のボタンと腰に大きなリボンがついたワンピースを、ハボックは当然自力では着られない。ロイはハボックがワンピースを着る事にいい顔をしないから、ハボックはワンピースを引っ張り出して自分で着ているのだが。 床に寝転がったハボックの背中はボタンを留めていないせいで開き、背中どころかずり落ちたワンピースから肩まで覗いている。結わいていないリボンは床に長く伸びて、どう控えめに見ても倒錯的で淫らだった。 「それこそ変態じゃないか」 もしこれを誰かに見られたら言い訳の仕様がない気がする。ロイはハボックの側にしゃがみ込むと肩からずり落ちるワンピースを引き上げてやりながら言った。 「なあ、そのワンピース、着るのやめないか?」 着せてやらなければ着るのを諦めるのではと思っていたのだが、ハボックは諦める気はないらしい。ここはひとつしっかり話し合ってハボックにワンピースを着るのをやめさせようと、ロイはハボックの瞳をじっと見つめて言った。 「あのな、ハボック。お前が綺麗なものや可愛いものが大好きなのは知ってるし、そのワンピースは確かにお前に似合ってる。だがな」 と、ロイはハボックの髪をかき上げる。 「それは女の子の服だ」 ロイはそう言って立ち上がると、着せるつもりで出したままソファーに放り出されたシャツとチェックのハーフパンツを取り上げた。 「この服だって十分可愛いと思うぞ?」 言いながらシャツを広げて見せるがハボックは不服そうだ。唇を突き出すハボックにロイが尚も言おうとした時、玄関のドアベルが鳴った。 「誰だ?」 大事な話の最中なのにとロイはムッとしながらも玄関に出る。扉を開ければ頼んであった本の配達で、ロイは受け取りにサインすると配達員に言った。 「すまんが中まで運んでくれるか?」 「判りました」 ロイの言葉に快く頷いて配達員は段ボールを抱えて中に入る。 「こっちでいいですか?」 と問われ、ああ、と頷いたロイは次の瞬間慌てて扉の前に立ちはだかった。 「こっ、ここはダメだッ、向こうの書斎に――――」 「ろーい?」 配達員を追いやろうとしたロイの背後で扉がカチャリと開くのと同時にハボックの声が聞こえて、ロイは凍りついた。 「…………ハボック」 キュッとシャツを引っ張る感触に下を見れば空色の瞳と目が合う。背中を留めていないワンピースからしどけなく細い肩を覗かせるハボックを見、それから視線を正面に戻せば、配達員の男が目をまん丸にしてハボックを見つめていた。 「ろーいー?」 不思議そうに言いながらロイの前にハボックが回り込めば、配達員の男が抱えていた段ボールを取り落とす。ドサッと大きな音にハッとした配達員は、顔を真っ赤に染めて剥き出しの白い背中を食い入るように見つめたまま口をパクパクとさせた。 「おっ、お邪魔しましたッ!」 裏返った声で何とかそれだけ言うとクルリと背を向ける。そのまま玄関から飛び出して行こうとする配達員にロイは怒鳴った。 「誤解だッ!私は決して妙な趣味がある訳じゃないッ!」 「は、はは……だ、誰にも言いませんからっ」 配達員はロイの声に玄関で一瞬足を止めて言う。 「言いませんからッ!またのご利用お待ちしてまァすッ!!」 「わーッ、待ってくれッ!」 バタバタと飛び出した配達員は車に飛び乗り物凄い勢いで走り去ってしまう。それをなすすべなく見送って、ロイはがっくりと跪いて手をついた。 「なんてこった……」 「ろーい?」 がっくりと項垂れるロイの顔をハボックが不思議そうに覗き込む。ロイはチラリとハボックを見ると、小さな手をがっしりと掴んだ。 「頼む、ハボック。ワンピースは勘弁してくれ……っ」 変態の噂がたってしまうッ、と頭を抱えるロイをハボックはキョトンとして見つめたのだった。 2012/08/22 |
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