第十一話


「それにしてもお前もヒマだな。ついこの間来たばかりじゃないか」
 ロイはそう言いながら冷たいハーブティーが入ったグラスをヒューズの前に置く。ヒューズは手を伸ばしてグラスを取るとゴクゴクと一気に飲み干してから答えた。
「そりゃあな、ハボックちゃんがいると思ったらさ」
 毎日だって来たいくらいだとおどけた調子で言う男をロイはじっと見つめる。オルゴールを嬉しそうに眺めるハボックに踊り子の服が可愛いだろうだの、この綺麗な曲はアメストリスでも有名な作曲家が作ったものだの、なんやかやと話しかけるヒューズが、実は自分達の事を気にかけて様子を見に来てくれていることをロイは気がついていた。
「お節介め」
「あー?なんか言ったかぁ?」
 ありがとうと言う代わりにボソリと呟けば、ヒューズが間延びした調子で言う。それには答えず空になったグラスにハーブティーを注ぐロイに、ヒューズは笑みを浮かべた。
 ポツポツと会話を交わしていると、ハボックがソファーからピョンと飛び下りる。タタタと走ってリビングを出て行ったハボックがカチューシャを手に戻ってきた。
「ろーいっ」
 ヒューズに駆け寄ると手にしたカチューシャを翳して見せる。なんとか自分でつけようとするのを見て、手伝ってやろうと手を出したヒューズがハッとして言った。
「ハボックちゃん、もしかしてこれ使った?!」
 ハボックが答えるように笑えばヒューズがキッとロイを見た。
「ロイっ、ハボックちゃんにワンピース着せたのかッ?」
「服を買いに行くんで仕方なく、な」
「なんで俺を呼ばないんだッ」
 ガバッと乱暴な仕草で立ち上がるヒューズにロイは肩を竦める。
「なんでわざわざ呼ばなきゃならんのだ、あんな変態な格好させたからといって。大体な」
 と、今度はロイが乱暴な仕草で身を起こした。
「大変だったんだぞ、やたらめったら声をかけられて。きっと男のハボックにワンピースを着せてるのがバレたに違いないんだ。変態だと思われていたらどうすればいいんだッ」
 あああ、とロイが髪を掻き毟れば、ヒューズが呆れたように言った。
「やたら声をかけられたって、そりゃハボックちゃんが可愛いからに決まってるじゃねぇか」
「は?」
「ハボックちゃん、可愛かったろ?」
「それは、まあ……な」
 ワンピースを着せる事に抵抗はあるものの、可愛いかと聞かれたらそれは確かにそうだ。渋々ながらロイが頷くと、ヒューズが両手の拳を握り締めて身悶えた。
「やっぱりなぁッ!絶対そうだと思ったんだよッ!」
 俺の見立てに間違いはなかったと一頻り喚いたヒューズがロイにズイと顔を寄せる。
「ロイ、俺にハボックちゃんのワンピース姿見せ―――――」
「駄目だ」
 皆まで言わせずロイが却下すればヒューズが目を吊り上げた。
「なんでだッ!ズルいぞ、ロイ!自分だけちゃっかりハボックちゃんのワンピース姿見てっ!」
「別に見たくて見た訳じゃない」
「俺は見たいんだよッ、見せろッ!」
「駄目だ。あんな変態行為、ハボックに何度もやらせる訳にはいかない」
 キッパリと言い切るロイは何を言っても聞き入れてくれそうにない。ヒューズはハボックを見て尋ねた。
「ハボックちゃん、ワンピースどこ?持ってきてくれる?」
 そう言われてハボックがしょんぼりと俯く。
「ワンピースは隠した。カチューシャだけはハボックが欲しがったから渡したがな」
「そうなのかっ?ハボックちゃんッ」
「ろーいー」
 ハボックが残念そうに言うのを聞いて、ヒューズがズカズカとロイに近づいた。
「今すぐワンピースを出せ、ロイ」
「断る」
「あれは俺がハボックちゃんにあげたんだぞ」
「ハボックに何を渡すかは私が決める」
「なっ……、横暴だぞ、ロイ!ワンピース返せ!ハボックちゃんも返して欲しいだろ?」
「ろーい〜」
 二人がかりで返せ戻せろーいと喚かれて、ロイの眉間の皺が深まる。
「煩い。あんまり煩くするとワンピース燃やすぞ」
 そう低く告げれば一瞬押し黙った二人が次の瞬間一層大声で喚き立てた。
「燃やすなんてどこまで人でなしなんだッ!」
「ろーい〜ッ!!」
「だーッ、煩いッ!もう絶対燃やすッ!」
 言うなり立ち上がってリビングを飛び出すロイをヒューズとハボックが即座に追う。階段を駆け上がり寝室のクローゼットを開けると、ロイは棚の奥から箱を引っ張り出した。
「ワンピースはそこかッ!――ハボックちゃんっ」
「ろーいッ」
 追ってきたヒューズが叫ぶのに答えてハボックがぴょーんと飛ぶ。
「うわッ、こら、ハボック!やめんかッ」
 頭にしがみつかれて慌てるロイの手からヒューズが箱を奪い取った。
「やったぞ、ハボックちゃん!」
「ろーいっ」
 喜ぶ二人にロイがニヤリと笑う。
「甘いな」
そ う言うロイの手にワンピースが握られているのを見て、慌てて箱を開けた二人は空であることに気づいて飛び上がった。
「終わりだ」
 ニヤリと笑ってロイが発火布を嵌めた手を突き出せば。
「ろーいッ!」
 叫んだハボックがボロボロと泣き出すのを見て、ロイとヒューズはびっくりして押し黙った。ヒクッヒクッと肩を震わせるハボックにヒューズがチラリとロイを見る。
「あーあ、泣かせたな、ロイ」
「えっ?」
「酷い男だよなぁ」
「うっ」
 そんな風に言われれば返す言葉がない。ロイはハボックに近づくとそっと金色の頭を撫でた。
「あー……ハボック」
 決まり悪そうに呼ぶと涙に濡れた空色がロイを見る。ロイはため息をつくと手にしたワンピースをハボックに差し出した。
「ほら」
「……ろーい」
 ハボックが手を伸ばしてワンピースをギュッと抱き締める。大事そうにワンピースを抱き締めるのを見て、ロイはやれやれとため息をついた。


2012/08/21


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