第十話


「ハボックちゃん、こんにちはっ」
「また来たか、髭」
 扉を開ければニコニコと満面の笑みを浮かべる髭面にロイは露骨に嫌な顔をする。だが、ヒューズはそんなロイの態度など気にも留めず、中に向かって声をかけながら家へ入った。
「ハボックちゃあん!」
「おい、誰が入っていいと――――」
 パタパタと奥から軽い足音が聞こえたと思うとハボックが飛び出してくる。ヒューズの脚にギュッとしがみつくのを見て、ロイは目を剥いた。
「ろーい」
「そこで“まーす”って言ってくれるともっと嬉しいけどなぁ」
 ヒューズはだらしない笑みを浮かべて言う。ハボックの前に跪くと手にしていた紙袋を見せた。
「今日もいいもの持ってきたよ」
 ヒューズが言えばハボックが目を輝かせる。
「こんな玄関先じゃなんだから奥に行こうか」
 そう言ってハボックの手を取るヒューズに、ロイが目を吊り上げた。
「おい、待てッ!ヒューズ、貴様、ハボックに何を吹き込んだッ!」
「なにって、別になにも。オレ達昔っから仲良しだもんな」
 ねーっ、とハボックと顔を見合わせて言うヒューズにロイはズカズカと歩み寄る。ハボックの手をヒューズから取り戻して、ロイが言った。
「嘘をつくなッ!そんな訳ないだろうっ」
 ロイがそう言った時、ハボックがロイの手を振り解いてヒューズに近寄る。ハボックが紙袋の中に顔を突っ込むようにして中を覗くのを見て、ハッとしてロイが言った。
「そうか、土産か」
 ヒューズが可愛いものや綺麗なものを持ってくる事をハボックが覚えていて懐いているのだと察して、ロイはハボックを引き寄せて言った。
「ハボック、そんな奴の変態趣味に惑わされては駄目だそ」
「これのどこが変態趣味だって言うんだよ」
 ロイの言葉にヒューズがムッと唇を尖らせる。ヒューズは紙袋をガサガサと言わせて中から取り出したものをハボックの前に置いた。
「ろーい?」
「開けてごらん、ハボックちゃん」
 ヒューズに言われてハボックは床にペタンと座り箱の蓋を持ち上げる。クッション代わりの詰め物をどけると中から現れたのは小さなオルゴールだった。
「このネジを回して、それから蓋を開けるんだよ」
 ヒューズはそう言ってオルゴールの裏についたネジを回す。ハボックがそっと蓋を開けると綺麗な曲が流れ出し、中に入っていた小さな踊り子がクルクルと回った。
「ろーいっ」
 それを見たハボックがキラキラと目を輝かせる。流れていた曲が段々と小さくなり踊り子がゆっくりとその踊りをやめるまで見入っていたハボックは、ピタリと曲が止まったのを見て泣きそうになってヒューズを見た。
「大丈夫、このネジを回せば何度でも聞けるから」
 言いながらヒューズがネジを巻けばまた曲が流れ踊り子が踊り出す。床に寝そべって間近にオルゴールを見ながらふんふんと調子っぱずれの曲を口ずさむハボックを見て、ヒューズが勝ち誇ったようにロイを見た。
「どうよ?これでまたポイントが上がったな」
「チッ」
 ニヤリとわらうヒューズにロイが忌々しそうに舌打ちする。それでもハボックがそれを気に入っているのを見れば、いつまでも不機嫌を装っているわけにもいかなかった。
「よかったな、ハボック」
 そう言ってハボックの金髪を撫でてやればハボックがロイを見てにっこりと笑う。
「ろーいっ」
 嬉しそうに言ってオルゴールを抱き締めると、ハボックはロイに手を伸ばした。
「あれぇ?ハボックちゃん、俺のとこに来るんじゃないの?」
「悪かったな、ヒューズ」
 ロイはハボックの体を抱き上げるとニッと笑う。
「ろーい」
 そんなぁ、と文句を言うヒューズを後目に、ロイは嬉しそうにオルゴールを差し出して見せるハボックを優しく見つめたのだった。


2012/08/20


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