2014七夕編


「ろぉい〜〜ッ!」
 バンッと寝室の扉が叫び声と共に乱暴に開く。パタパタと軽い足音がしたと思うとぱふんとブランケット越ししがみつかれて、もぞもぞと動いたロイは目を透かしてハボックを見た。
「おはよう……どうした、今朝は早いな」
 朝が苦手なハボックは夜更かしで起きるのが遅いロイとどっちが早いかというくらい朝寝坊だ。そんなハボックが起こしにくるなんて珍しいと思いつつもすぐには起きられずにいれば、ハボックがバンバンとブランケットの上からロイを叩いた。
「ろいッ!」
「ああはいはい、判ったわかった……今起きるから……」
 例によって本を読んでいたせいで寝不足な頭を振ってロイはベッドの上に身を起こした。
「一体なんだ、ハボック……」
「ろーいーっ」
 ふわぁと大欠伸をしながら答えるロイの手をハボックが引っ張る。のろのろとベッドから下りれば窓際まで連れて行かれて、ロイは鎧戸に手をかけた。
「一体なんだって言う――――あ」
 欠伸混じりに言いながら鎧戸を開けたロイは目の前に広がる景色に目を見開いた。
「雨」
「ろーい〜ッ!」
 灰色の空から雨がシトシトと降り注いでいる。涙の混じった声に傍らのハボックを見下ろせば、昨日二人で書いた短冊を握り締めて空色の瞳に涙をいっぱいに溜めていた。
「ろーい……ッ」
「ハボック」
 わんわんと泣くハボックにロイはため息をついてハボックを抱き上げる。キュッとしがみついてくるハボックの背をロイは優しく撫でた。
「あのな、ハボック。今空には雨雲がいっぱいあって地上には雨が降っているだろう?だがな、あの雲の上にも空はあって、そこは晴れてるんだよ」
「……ろい?」
「地上は雨でも空の上は晴れてるんだ。だからちゃんと彦星と織り姫は会うことが出来るんだよ。私達からは見えないだけでな」
「ろーい……」
 ロイの説明を空色の瞳を大きく瞠って聞いていたハボックがパチクリと一つ瞬きする。そうすれば睫毛に溜まっていた涙が頬を零れて落ちて、ロイは指先で涙を拭ってやった。
「きっと今年は二人きりで誰にも邪魔されたくなかったのかもな。雲の上で彦星と織り姫はデートしてるから心配しなくて大丈夫だ。願い事もちゃんと叶えてくれるさ」
 そう言ってロイがにっこりと笑えばハボックが小さな手でゴシゴシと目をこする。
「ろい」
「うん、心配しなくて大丈夫だ」
 頷くロイにハボックが漸くホッとしたように笑みを浮かべた。
「ろーいっ」
「今頃は今夜のデートに備えて雲の上で大わらわだぞ、きっと」
 そう言って空を指差せばハボックも空を見上げる。にっこりと笑ったハボックは手にした短冊を見てハッと目を見開いた。
「ろいっ」
「大丈夫、今からつけ直そう」
「ろい!」
 ロイがそう言うや否やハボックはロイの腕からピョンと飛び降りる。
「ろーい!」
 早くと言うように言って寝室を飛び出していくハボックの後を追って、ロイはクスクスと笑いながら部屋を出た。大事な願い事を書いた短冊を結び直して、その日二人は雲の上の彦星と織り姫を思いながら七夕飾りを見上げて過ごした。


2014/07/07


→ 第五十二話