ろいの日


「うーん……」
 ロイはベッドの上で身を起こし腕を突き上げて思い切り伸びをする。やれやれと腕をおろしてコキコキと首を回したロイは、ベッドから降りてハボックが寝床にしているクッションの山に向かって声をかけた。
「おはよう、ハボック。そろそろ起きて────」
 そこまで言ってからロイは山の中にハボックがいないことに気づく。自分に劣らず朝が苦手なはずのハボックがもう既に起き出している事に少なからず驚きながら、ロイは寝室を出た。
「ハボック、どこに」
 言いながら踏み出した足の下になにかあることに気づいて、ロイはそっと足を上げる。
「────花?」
 踏んでしまった小さな花をつまみ上げてロイは首を傾げた。
「どうしてこんなところに」
 と、視線を動かせば廊下に転々と花が落ちている。ほんの少し目を見開いて、ロイは転々と続く花を拾い上げた。
「ハボックが落としたのか?」
 それにしては綺麗に並べたように花が落ちている。ロイは廊下から階段を下り花を辿るようにリビングへと向かった。
「おい、ハボック、廊下に花が────」
 言いかけてリビングの扉を開ければ。
「ろぉーいッ!」
「わッ」
 頭上からはらはらと色とりどりの花が沢山降り注いできてロイは目を見開いた。
「ろいっ」
「ハボック?一体これは」
 手にした籠を投げ捨てて飛びついてくるハボックを、膝をついて受け止めてロイは尋ねる。すると聞き覚えのある声が頭上から降ってきた。
「よっ、ロイ」
「ヒューズ!どうしてお前がここにいるんだ?」
 驚いて見上げてくる黒曜石を見下ろしてヒューズがニヤリと笑う。
「いや、この間ハボックちゃんに六月一日は語呂合わせでロイの日だよって言ったらさ、お祝いしたいって言うんだよ。だからその手伝い」
 ヒューズはそう言ってリビングの扉の近くに置かれた台を指さす。どうやらその台に乗ったヒューズに肩車して貰ったハボックがロイの頭上めがけて籠に摘んだ花を撒いたらしい。ロイはキュッと抱きついてくるハボックの顔を覗き込んで言った。
「この花、いつの間に摘みに行ったんだ?全然気づかなかった」
「ろーいっ」
 そう言われてハボックがチラリとヒューズを見る。すると途端にヒューズが顔を弛ませて言った。
「昨日お前が図書館に行ってる隙にハボックちゃんと摘みに行ったんだよ〜。楽しかったァ」
 うふうふと髭面を両手で包み込んで体をくねらせるヒューズにロイは眉を寄せる。ハボックがヒューズを頼ったのはちょっとばかり気に入らなかったが、それでもこうして祝おうとしてくれたのがロイは嬉しかった。
「ろぉい?」
「うん、ありがとう、嬉しいよ、ハボック」
「ろいッ」
 どうだったと尋ねるように見つめてくる空色ににっこりと笑って答えれば、ハボックがパッと顔を輝かせて抱きついてくる。そんな二人にヒューズがクスリと笑って言った。
「ほら、ハボックちゃん、まだあるだろう?」
「ろいっ」
 言われてハボックがロイの腕の中でピョンと飛び跳ねる。キッチンにパタパタと走っていったと思うと、トレイにガラス製の急須とグラスを乗せて戻ってきた。
「ろー……い……」
 トレイの上の食器を落とさないよう慎重に慎重に歩いてハボックはロイの前にやってくる。ニコッと笑ってハボックは花が散った床の上にトレイを置いた。小さな手で急須を持ち上げそろそろとグラスに中の液体を注ぐ。そうしてハボックが差し出したグラスをロイは驚いたように目を見開いて受け取った。
「ハーブティー?」
「ハボックちゃんの井戸水で淹れたハーブティーだぜ」
 そう言うヒューズの言葉を聞きながらロイはグラスに口をつける。口の中に広がる甘く爽やかな香りにロイは顔を綻ばせた。
「旨い」
「ろーいっ」
 ロイの言葉にハボックがピョンピョンと飛んで喜ぶ。そんなハボックをロイは笑って引き寄せた。
「ありがとう、ハボック。本当に嬉しいよ」
「ろい」
 ロイの腕の中でハボックが嬉しそうに笑う。ロイはハボックの金髪を優しく撫でて言った。
「ありがとう、こんな素敵なロイの日は初めてだよ」
「ろいっ」
「俺には?俺にお礼は?ロイ」
 ハボックにばかり礼を言うロイにハボックが髭面を指さして言う。ヒューズをチラリと見上げて、それからハボックを見てロイは言った。
「仕方ない、特別大サービスでお前にもハボックが淹れてくれたハーブティーを飲ませてやる」
「お、やったね!」
 そうして花が散る床の上に座り込むと、三人はハボックが淹れたハーブティーを飲みながら楽しく時を過ごした。


2015/06/04


→ ろいとはぼの日