ひゅとはぼの日


 ドンドンドンと、朝っぱらから玄関を叩く音にロイはベッドの中で眉を顰める。無視していればそのうちいなくなるかとブランケットの中に潜り込んだが、玄関を叩く音はやむどころか一層激しくなった。
「ろーい〜っ」
 あまりに煩いその音に、クッションの山の中で寝ていたハボックがロイのベッドに潜り込んでくる。騒音から少しでも逃げようとするようにロイの懐に潜り込むハボックの小さな体を抱き締めていたロイだったが、いい加減耐えきれなくなって、ブランケットをはね除けて飛び起きた。
「あーッ、煩いッ!!こんな朝早くから一体どこのバカ野郎だッ、燃やしてやるッッ!!」
「ろいーっ」
 物騒な言葉を吐き出すロイにハボックがぴっとりと身を寄せる。ロイはハボックの小さな体を抱き上げるとベッドから降り、足音も荒く階段を下りた。
「やかましいッッ!!今何時だと思って────」
「ハボックちゃああんッッ!!」
 怒鳴りながらバンッと扉を開けたロイの大声を、更に上回る大声が遮る。満面の笑みを浮かべた髭面が目の前に迫って、思わず後ずさるロイの腕に抱かれたハボックに向かってヒューズが手を差し伸べた。
「お待たせッ!マースくんが来ましたよっ、ハボックちゃんッ!」
 ヒューズはそう喚きながらハボックを抱き上げようとする。空色の目をまんまるに見開くハボックを、ロイは庇うように抱き締めてヒューズを睨んだ。
「ヒューズ!貴様、朝っぱらから一体何の用だッ!お待たせって、誰もお前のことなど待っておらんッ!」
 黒曜石の目をキッと吊り上げてロイが怒鳴る。そんなロイにヒューズが不満げに唇を突き出した。
「えーっ、そんな事ないだろッ!今日は八月八日だぜ、八月八日!」
「八月八日だからなんだと言うんだ?!」
 今日が八月八日だからといって何だというのだろう。特に何かの記念日でもなければ、今日この日と約束した覚えもない。
「何の事だか判らんな。朝っぱらから人をたたき起こす理由にもなってない。とっとと帰れ!」
 朝早くから叩き起こされた怒りで、ロイは冷たく言うと玄関の扉を閉めようとする。だが、一瞬早く足を挟んだヒューズが声を張り上げた。
「八月八日って言ったらヒュハボの日だろッ!オレとハボックちゃんの日だよッ!」
「────は?」
「六月八日はロイハボの日でお前とハボックちゃんの日だったんだろ?だったら今日八月八日はオレとハボックちゃんの日っ!だからハボックちゃんにプレゼント持ってきたんだよぅ」
 ほらほら、とヒューズは言って手にした紙袋から大きなリボンがかかった包みを取り出す。それを見てパッと顔を輝かせたハボックが、ロイの腕からピョンと飛び降りた。
「あっ、こら、ハボック!」
「ろぉい〜っ」
 ハボックは包みを手にするヒューズの腰にしがみつくと強請るようにロイを見る。いつもハボック好みの可愛い品を持ってくるヒューズのプレゼントにすっかりと興味を引かれてしまったハボックに、ロイはチッと舌打ちした。
「ハボックちゃんも歓迎してくれてる事だしッ、いいよなっ!」
 ハボックを味方につけたヒューズがフフフと笑う。勝ち誇ったような髭面が癪に障ったが、ハボックにキラキラとした瞳で見つめられればどうにも折れるしかなかった。
「────特別だぞっ」
「判ってるって、ヒュハボの日だからなッ!」
 仕方なしに言えば嬉しげなヒューズの声が返って腹が立つ。それでもハボックの嬉しそうな顔を見て、ロイはハアとため息をついた。
「で?なにを持ってきたんだ?」
「ナイショー。俺とハボックちゃんだけの秘密っ!ねーっ、ハボックちゃんっ」
「ろーいっ」
「なんだとッ」
 ねーっ、と顔をつきあわせて笑いあうヒューズとハボックにロイが目を吊り上げる。
「なにが秘密だッ、特別に入れてやったのに!」
「ヒュハボの日だもんッ!さ、ハボックちゃん、行こ行こ!」
「ろいっ」
「あっ、こらッ!」
 言うなりヒョイとハボックを抱き上げて近くの部屋に飛び込んだヒューズに、目と鼻の先で扉を閉められてロイはガチャガチャとノブを回した。
「開けないかッ、ハボック!」
「ろーいッ!ろいッ!」
「うっ」
「そう言うわけだからドアを燃やすなよ、ロイ」
「ううっ」
 中から返ってきた声に無理矢理扉を開けることも出来ず、ロイは二人が部屋から出てくるまでの間、扉越しキャッキャッと笑いあう楽しげな声を聞きながらうろうろと扉の前を歩き回っていたのだった。


2015/08/08


→ はぼっくの日