はぼっく便


 コトン、と聞こえた音に庭のアジサイの花の上でウトウトしていた毛糸玉はピクンとその柔らかい毛を揺らす。コロンと花から転げて落ちると、地面に着く前に子供の姿になった。トンと小さな足で地面に着地したハボックは、タタタと門の方へ駆けていく。門の横にとりつけてある郵便受けの口から封筒の端っこが飛び出ているのを見ると、手を伸ばして封筒をうんしょと引っ張った。
「ろ、いっ」
 郵便受けは少しの間封筒を咥えて離さなかったが、力を込めて引っ張るとスポンと封筒を吐き出す。引っ張った勢いでステンと尻もちをついたハボックは、封筒を落とさずに済んでホッと息を吐いた。
「ろい」
 封筒にはハボックには読めない文字で何やら書いてある。読めはしなかったがハボックにはそれがロイの名前だというのが判って、ハボックは立ち上がると封筒を胸に抱えて家に向かって来た道を戻った。
 手を伸ばして玄関のノブを回して重い扉を押しあける。そうしてハボックはリビングへと飛び込んだ。
「ろー……い?」
 庭に出る前はソファーで本を読んでいたロイの姿がない。首を傾げたハボックはリビングを抜けダイニングとキッチンを覗いたが、そこにもロイの姿はなかった。
「ろいー」
 むぅ、と唇を突き出してハボックは廊下に出る。大事に封筒を抱えたまま一段一段階段を上った。
「ろいっ」
 バンッと寝室の扉を開けたがロイの姿はここにもない。どうやら覗き忘れた一階の書斎にいるらしいと、ハボックは金色の頭に生えた犬耳をぺしょんと伏せた。だが、すぐにフンッと顔を上げると封筒を抱えて階段をそろそろと下りる。封筒を落とさずに無事一階まで下りると、封筒を頭に乗せてパタパタと廊下を駆けた。
 書斎の扉の隙間を何とか抜けて中に入ればロイが窓辺で本を積み上げて調べ物をしている姿が目に入る。ハボックは漸くロイを見つけた事にパッと顔を輝かせるとあちこち積まれた本の山を抜けてロイの側へと行った。
「ろーいっ!ろいっ!ろぉいーっ!」
 例の如く本に集中している男を声を張り上げて呼び続ける。そうすればパチパチと瞬いた黒曜石がハボックを見た。
「ああ、ハボックか。どうした?」
「ろいっ」
 ハボックは郵便受けから持ってきた封筒をロイに差し出す。封筒を受け取って差出人を確認したロイはにっこりと笑って言った。
「やっと来たか!届くのを待ってたんだ。持ってきてくれてありがとう、ハボック」
「ろいっ」
 金色の頭をわしわしと撫でられて、ハボックは嬉しそうににっこりと笑った。


2015/06/23


→ 第五十九話