Happy happy whiteday


「ハボックちゃあん!マース君が来ましたよぉ!」
 ドンドンと扉を叩く音と共に陽気な声が聞こえる。ピョコッと金色の頭と同じ色の犬耳を立てて、ハボックが本を読むロイを見た。
「────ったく!もう少し静かに来られんのか、アイツは」
 ブツブツと文句を呟きながらロイは本をテーブルに置いて立ち上がる。玄関に向かえば、ハボックがフサフサの尻尾を振りながらついてきた。
「煩いぞッ!少しは静かにしろッ!」
 バンッと勢いよくロイは扉を開ける。ムスッとした顔で見つめてくる友人を無視して、ヒューズはロイのズボンにしがみついて見上げてくるハボックを見た。
「ハボックちゃんっ、元気だった?」
「ろい!」
 コクンと頷いてハボックは答えるとパッと身を翻してリビングに戻ってしまう。ニコニコとその背を見つめていたヒューズは低い声で尋ねた。
「おい、抜け駆けしなかったろうな」
「フン、このロイ・マスタングがそんなセコイ真似をする訳がなかろう」
 バチバチと交わす視線で火花を散らしてロイとヒューズは相手の様子を伺う。次の瞬間、二人同時にリビングに向かって駆けだした。
「「ハボック(ちゃん)ッッ!!」」
 互いを押し退けるようにしてもの凄い勢いでリビングに飛び込んでくる二人に、ハボックがぴゃっと飛び上がる。ポンッと黒い毛糸玉になるとカーテンの後ろに隠れてしまった。
「あっ、ハボック!おい、お前が驚かせるからッ!」
「ハボックちゃん!なに言ってる、お前がおっかない顔して飛び込むからだろッ!」
 ギャアギャアと大声で騒ぐ二人の様子を黒い毛糸玉がカーテンの陰からそっと伺う。それに気づいて、男二人は精一杯笑みを浮かべた。
「すまん、ハボック、大声を出して悪かった」
「ビックリさせちゃったね、ハボックちゃん。ごめんねッ」
「……ろーい」
 二人の言葉にハボックがポンと子供の姿に戻る。カーテンにしがみついて見上げてくる空色に、二人は互いに視線を交わすと一歩近づいた。
「あのな、ハボック、この間のバレンタインにクッキーをくれただろう?そのお返しを────」
「お返しっ、あげようと思ってさッ、ハボックちゃんッ」
「あっ、こらッ、ヒューズッ!押すんじゃないッ!」
「お前こそ押すなよ、ロイッ!俺がハボックちゃんに渡そうとしてるのにッ!」
「なんだとッ、私が先に渡すんだッ!」
「俺が先だッッ!!」
「ろーいー」
 プレゼントの包みを手にど突きあう二人にハボックがため息をつく。
「ろいッ!」
「「はいッッ」」
 腰に手を当てキッと睨んでくるハボックに、二人はピッと直立不動の姿勢を取る。ジロリと空色の瞳に睨まれて、二人は視線を交わすと膝をつきそっとプレゼントを差し出した。
「この間のバレンタインのお返しだ、ハボック。いつもありがとう。お前がいてくれて私は本当に幸せだ」
「俺からもバレンタインのお返し。ハボックちゃん、大好きだよ」
「ろい……」
 笑みを浮かべてプレゼントを差し出す二人にハボックが目を瞠る。それからにっこりと笑って両手を出すと、二つのプレゼントを受け取った。
 ハボックはソファーによじ登りプレゼントの包みを左右に置く。ロイから貰ったプレゼントを取り上げリボンを解き包みを開いた。
「ろいっ」
 中から出てきたのは繊細なカットが施されたクリスタルのグラスだった。
「水を飲むのにいいかなと思って」
「ろーいッ」
 そう言うロイにハボックは嬉しそうに笑ってグラスを宙に掲げる。そんなハボックにヒューズが焦れたように言った。
「ハボックちゃぁん、俺のも開けてよぅ」
「ろぉいっ」
 判ってると頷いて、ハボックはグラスをそっと置くとヒューズのプレゼントを手に取る。リボンを解いて包みを開くと中から綺麗な筒が出てきた。
「ろい?」
 キョトンとして筒を手にするハボックにヒューズは言う。
「ここの小さな穴から中を覗きながら筒をゆっくり回してごらん」
「ろい」
 ハボックは言われたとおり筒の片側の穴に目を当て筒をゆっくりと回す。そうすれば、綺麗なガラスの破片が様々な模様を描くのを見て、ハボックはパッと顔を輝かせた。
「ろーいッ!」
「カレイドスコープだよ。綺麗だろう?」
「ろいッ」
 ハボックは顔を輝かせて頷く。右手にロイのグラスを左手にヒューズのカレイドスコープを持ってピョンとソファーから飛び降りた。
「ろいっ、ろぉいっっ」
 ありがとうと礼を言って二人の頬にチュッとキスをする。
「ハボックっ」
「ハボックちゃぁんっ」
「ろいっ」
 ニコッと笑うハボックにロイとヒューズが感極まったような声を上げた。
 そうしてグラスで井戸の水を飲みながらカレイドスコープを覗くハボックの側で、ロイとヒューズはコーヒーを飲みながらのんびりと過ごしたのだった。


2016/03/14


→ 第六十二話