| 第八話 |
| 「ろーい」 ハボックは言ってキュッとしがみついたロイの膝に頬を寄せる。呼ばれたロイは目をまん丸に見開いてしがみつくハボックのふさふさと揺れる尻尾を見つめた。 「お、可愛いじゃないか!ろーいだってさ」 俺の事も呼んでくれっと自分の顔を指さして「マース」と連呼するヒューズの声もロイの耳には入ってこない。ロイは己の膝に頬をすり寄せるハボックをまじまじと見つめた。 「初めて呼ばれた……」 そう呟く声にヒューズはロイを見る。呆然と呟くロイの手がポットを傾けたままなのに気づいて、ヒューズは慌てて怒鳴った。 「ロイっ、ポット!!紅茶溢れてるッッ!!」 「え……?うわわ…ッッ!!」 カップから溢れた紅茶が皿からも溢れかけているのを見て、ロイは慌ててポットを起こす。ガチャンと乱暴にポットをテーブルに置いて、ロイはハボックの頭を撫でた。 「ろい」 ハボックは嬉しそうに笑いながらロイを呼ぶ。大きく尻尾を振るハボックを見て、ヒューズが言った。 「なんだ、お前。呼ばれたことなかったのか?」 「今まで一言だって喋ったことがないんだ。叫び声や泣き声は聞いたことがあったが。そういえば私の名前を教えてなかった」 「おいおい」 ロイが言えばヒューズが呆れたようにロイを見る。 「今までお前の名前を呼んだことがないのに、どうして───ああ、俺が呼んだからか」 どうやら自分が呼ぶのを聞いてハボックがロイを呼んだのだと気づいて、ヒューズはポンと手を打つ。至極真剣な顔でロイを見て、ヒューズは言った。 「俺の事も呼んでくれ、ロイ」 「はあ?」 「俺もコイツに呼ばれたいっ、なあ、俺のこと呼んでっ、ロイ!」 科を作って言うヒューズにロイは思い切り顔を顰める。 「よさんか、気色悪い」 「ええっ、なんだよ、気色悪いって!」 ヒューズはロイの言葉に不貞腐れたように唇を尖らせ、ハボックの方に身を乗り出した。まともに取り合ってくれそうにないロイに頼むのはやめて、ヒューズは直接ハボックに言った。 「俺、マース!なぁ、呼んでよ、ハボックちゃんッ!」 必死に己の名前を連呼しながら訴えるヒューズをハボックはキョトンとして見上げる。何度も自分の名を繰り返したヒューズは、ハボックが呼んでくれるのを期待してハボックの顔をのぞき込んだ。ハボックはそんなヒューズをまん丸に見開いた空色の瞳でじっと見つめる。次の瞬間ロイに視線を移してにっこりと笑った。 「ろい」 「えええッ!なんでッッ?!」 呼んでもらえるかと目一杯期待していたヒューズはがっくりと肩を落とす。だが、ハボックはそんなヒューズには目もくれずロイの膝によじ登った。 「諦めろ。最初の印象が悪すぎだ」 「そんなぁっ」 ヒューズは諦めきれずにロイの膝に乗ったハボックに手を伸ばす。一番手近の尻尾にヒューズの手が触れた途端、ハボックがビクッと飛び上がった。スーッと金色だった髪が灰色がかり体が縮まる。膝の上で震えるハボックを見て、ロイは目を吊り上げた。 「ヒューズ!!」 「今度は引っ張ってないぞっ」 「不用意に触るなッ!!」 キッとヒューズを睨みつけて、ロイはハボックをヒューズの手が届かないように遠ざける。ハボックはそんなロイをグレーになった瞳で見上げた。 「ろい」 「お前ばっかりズルイっっ!!」 それを聞いたヒューズが喚く。 「煩いぞ、ヒューズ」 フンと鼻を鳴らしたロイはハボックの頭を撫でながら胸がほわりと暖かくなるのを感じた。 2011/06/21 |
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