第五十二章


「マスタング大佐、ブランドンです。いらっしゃるんでしょう?開けてください!」
「私は中央研究所研究員のサファテと申します!電話が繋がらないので直接伺いましたっ」
「ハミルトンですッ!マスタング大佐っ、是非大佐が作ったキメラをッ!」
「マスタング大佐!」
「大佐っ、ここを開けて!」


 先日、突然訳の判らない電話がかかってきてからと言うもの、ロイの家には軍やら研究所やらの関係者と名乗る者がひっきりなしに訪れるようになっていた。鎧戸を閉め切っていても扉をドンドンと叩く音や開けろと喚く声を遮ることは出来ず、ロイは読んでいた本をテーブルの上に投げつけると勢いよく立ち上がった。
「ろーい」
「お前はここにいろ、ハボック」
 心配そうに見上げてくるハボックにそう言って、ロイはリビングを出る。ドカドカと乱暴な足取りで玄関に向かうとバンッと叩きつけるように扉を開けた。
「いい加減にしろッ!」
 突然開いた扉に表で騒いでいた男たちが口を噤んでロイを見る。玄関先に群がる十数名の男たちを睨みつけてロイは言った。
「どこでなにを聞いてきたか知らないがはっきり言って迷惑だ。何度も言うが私はキメラなんて作っちゃいないし軍とも関係のない身だ。これ以上私の生活の邪魔をしないでくれッ」
 大きくはないがよく通る声できっぱりと告げると、ロイは男たちの返事を待たずに扉を閉めようとする。だが、扉が閉まりきるより一瞬早く、男の一人が扉に飛びついた。
「中にキメラがいるはずなんだッ」
「な……っ?」
 一人がそう喚いて無理矢理入り込もうとすれば、残りの男たちもそれに習う。一斉に押し込まれて、ロイは扉ごと押されるように中に倒れ込んだ。
「どこだっ?」
「こっちかっ?」
「勝手に入るなッ!」
 ドカドカと中に駆け込んでいく男たちに向かって怒鳴りながらロイは慌てて立ち上がる。手近の男の襟首を引っ掴んだ時、リビングからハボックの悲鳴が聞こえた。
「ろーいーッ!」
「ッ?!ハボック!!」
 ロイは掴んだ男を突き飛ばしてリビングへと突進する。中に飛び込めば、男たちが興奮した様子でハボックの腕や髪を掴んでいた。
「やはりキメラの話は本当だったんだ!」
「ここまで完璧な人型のキメラは見たことがないぞ!!」
「素晴らしいッ!すぐに研究所で調査をっ!」
「ろーいー!」
 男たちにもみくちゃにされて、ハボックが半泣きになってロイに助けを求める。
「やめろッ!!」
 ロイはハボックに群がる男たちを引き剥がしてハボックに手を伸ばした。
「ハボックっ!」
 ハボックの小さな体を庇うように腕の中に抱き締め、ロイは男たちを肩越しに睨む。
「ハボックはキメラじゃないッ!帰れッ!!」
「マスタング大佐っ、錬金術の発展のためにも────」
「出ていけッ!!」
 ロイは大声で怒鳴ると隠しに手を入れた。中から取り出した発火布を填めると男たちに向かって腕を突き出す。火蜥蜴の紋章が描かれたそれの威力を知る者たちは、ギョッとしてバタバタと家から飛び出していった。
「……ろーい?」
「すまなかった、ハボック」
 髪も服もくしゃくしゃになって、それでも心配するようにロイを見上げてくるハボックを、ロイはきつく抱き締めた。


2012/05/21


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