| 第五十章 |
| 「うーん」 本を読んでいたロイは読んだ場所が判らなくならないよう栞を挟むと、立ち上がり思い切り伸びをする。そうすれば開いた窓からそよそよと風が吹いて、ロイは伸びた手を窓枠について空を見上げた。 「今日もいい天気だ」 見上げた空に浮かぶ白い雲は清々しく、見下ろす庭は緑の若葉が青々と茂っている。そんな庭の片隅にハボックの金色の頭が見えて、ロイは窓から乗り出すようにして声をかけた。 「ハボック!また何か見つけたか?」 庭にしゃがみ込んでいる姿がどうやらまた何かみつけたらしいと察して、そう尋ねてみる。すると立ち上がったハボックが右手を上げてロイに見せた。 「ろーい」 「タンポポか」 ハボックが見せたのは黄色も鮮やかなタンポポだ。元気な黄色はハボックを色で表したようで、ロイは笑って言った。 「お前の頭と同じ色だな」 そう言われてハボックが自分の頭を見上げようとするように首を思い切り反らす。反らしすぎてそのままバタンと背後に倒れ込むのを見て、ロイは目を丸くした。 「おい、大丈夫か?」 心配して声をかければ仰向けに地面に倒れたハボックが手にしたタンポポをロイに向ける。平気そうだとロイは笑みを浮かべてハボックに軽く手を振ると中に引っ込み読みかけの本を手に取った。窓際に置いた椅子に座り続きを読み始める。そうすれば瞬く間に本の世界に没頭してしまった。 時折ゆるく風が吹き抜ける中、ロイがページを繰る音だけが響く。そうやって本を読んでいたロイの耳に、呼びかける声が聞こえてきた。 「────ーい!ろーい!」 「……え?あっ!」 何度も繰り返し呼ばれてロイは慌てて立ち上がると窓から顔を出す。例によって本に集中しすぎたようだ。庭を見下ろせばどうやら呼び疲れたらしいハボックが座り込むのが見えた。 「すまん、ハボック。本を読んでたものだから」 そう言い訳すればハボックが顔を上げる。ほんの少し頬を膨らませて、それでもいつもの事と慣れた様子でハボックは背後に隠していた両手を上げて見せた。 「ろーい」 そう言ってハボックが差し出したのはまん丸のタンポポの綿毛だ。ハボックはロイが見ているのを確かめて、右手を口元に寄せるとふーっと息を吹きかけた。すると。 まあるい綿毛が震えたと思うと解けるようにその形が崩れていく。ほっそりした種をぶら下げた小さな綿毛が幾つもいくつも風に乗ってふわふわと舞い上がった。 「────」 ハボックが吹いた綿毛が地上からロイの目の前を通って空へと散っていく。その様をロイは目を見開いて追いかけた。 「ろーい」 もう一度呼ぶ声がして見下ろすとハボックがもう片方の手に持った綿毛も吹いて飛ばす。下から舞い上がってくる綿毛達に向かって伸ばしたロイの手を、綿毛達は器用にすり抜けていった。 「ろーいー」 庭に立つハボックが笑いながら何度も何度も綿毛を吹いて飛ばす。ロイは青く晴れた空に白い綿毛が吸い込まれるように消えていくのを、窓から身を乗り出すようにして長いこと見送っていた。 2012/05/01 |
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