第三十九章


「ふむ。やっぱりこれしかないな」
 ロイはリビングのツリーを前に頷く。ツリーの下で宝箱の中身を並べているハボックを見下ろして、ロイは言った。
「ハボック、おいで。いいものを作ろう」
 呼ばれてハボックは不思議そうにロイを見る。ロイがキッチンへ行くのを見て、ハボックは急いで出したものを宝箱にしまうとロイを追ってキッチンへと向かった。
「ろーい?」
「お、来たか」
 パタパタと走ってきたハボックにシャツの袖を引かれてロイが言う。ロイは棚からハボックと一緒に作ったジンジャークッキーを取り出した。
「あのな、ハボック。ツリーの下の方、オーナメントがなくて淋しいだろう?」
 ロイがそう言えばハボックがじーっとロイを見る。その表情からハボックが言いたい事を察して、ロイは笑った。
「別にオーナメントを返せと言ってる訳じゃないから安心しろ」
 そう言うのを聞いて、ハボックがホッとしたような顔をする。そんなハボックにクスクスと笑ってロイは言った。
「それでな、オーナメントの代わりにこの間作ったジンジャークッキーを飾ろうと思うんだ」
 ロイはそう言って棚から出したクッキーをハボックに見せる。
「一応クッキーを作るときにリボンを通せるよう穴をあけておいたんだ。だから今日はアイシングで飾りをつけよう」
 ロイはボウルに粉砂糖を入れると水を少量垂らして椅子の上に乗ったハボックに渡した。
「ツヤが出るまでよく練ってくれ」
 そう言われてハボックはボウルを抱え込むようにして粉砂糖を練る。その間にロイはクッキーに通すためのリボンを取ってきた。
「ろーい」
「ん?出来たか?」
 ハボックが差し出したボウルの中をロイは覗き込む。粉砂糖に綺麗な銀のツヤが出来ているのを見て、ロイは「うん」と頷いた。
「いい具合だぞ、ハボック」
 そう言われてハボックが笑う。ロイはハボックが作ったアイシングを小さめのビニール袋に入れ、角をちょっとだけ切り落とすと皿の端に試しに絞り出してみた。
「うん、固さも丁度いいみたいだ。いいか?ハボック」
 ロイはアイシングの袋を手にハボックを見る。真剣な表情で見つめてくるハボックの前で、ロイはアイシングを絞り出してクッキーの頭部に目と口を描いた。
「こうやって顔を描くんだ。それからこうやると……服のボタンみたいだろう?」
 言いながら胴体部分にポツポツと三粒ほど落とせば、服の丸いボタンのように見えた。
「ほら、お前もやってみろ」
 ロイはアイシングの袋をハボックに差し出して言う。小さな手で袋を受け取ったハボックは、クッキーの上に絞り口を翳してロイを見た。
「ろーい」
「大丈夫、多少失敗してもいいからやってみろ」
 心配そうに言うハボックを励ますようにロイが頷く。ハボックはクッキーの顔の上で絞り袋を握る手にギュッと力を込めた。すると先端から絞り出たアイシングが大きな丸い粒になる。ロイが試し描きしたものよりだいぶ大きいそれを目を見開いて見つめたハボックは、泣きそうな顔でロイを見た。
「ろーい〜〜ッ」
「大丈夫、大丈夫。もう一つ同じくらいの大きさで絞り出してごらん」
 ロイは宥めるように言って続けるように促す。ハボックは口をへの字にしながらもクッキーの顔にもう一粒アイシングを絞り出した。
「ほら、目がパッチリの男の子になったぞ」
 ロイの言うとおり見本のジンジャーマンより目が大きいものの、これはこれで可愛らしい。ホッとしたように笑うとハボックは目の下に口を描いた。
「うまいぞ、ハボック。その調子だ」
 わしわしと金色の頭をかき混ぜられてハボックが嬉しそうに笑う。次々と少しずつ違う顔をクッキーに描き込めば、表情を得たジンジャーマン達が楽しそうにハボックを見返した。
「ろーい」
「ふふ、色んなジンジャーマンが出来たな」
 顔を輝かせて見上げてくるハボックにロイが言う。一通り顔を描いたところで、ロイは用意したリボンを取り上げた。
「よし、そうしたら今度はこのリボンを適当な長さに切って穴に通すんだ」
 そう言うとロイは長さの見当をつけてリボンを切る。それをクッキーの穴に通し輪になるよう端を結んだ。
「ほら、こんな感じ」
 ロイがやることをじっと見ていたハボックは、ロイから受け取ったはさみでリボンを切る。それを穴に通して端を結んだハボックは目をきらきらさせて出来上がったジンジャーマンのクッキーを高く翳した。
「ろーい!」
「ほら、どんどん作るぞ。これ全部ツリーに飾るんだからな」
 そう言われてハボックは頷いてリボンを切る。二人して次々とリボンをクッキーに通し、ツリーに飾れるように仕上げた。
「さあ、ハボック。次はツリーだ」
 ロイの言葉にハボックはピョンと椅子から飛び降りる。クッキーを載せたトレイを持つロイにじゃれるようにしながらリビングに行くと、ハボックは待ちきれないというようにリボンに手を伸ばした。ハボックがオーナメントを取ってしまって淋しくなったツリーの枝に、二人はジンジャーマンをくくりつける。少しするとツリーは大勢のジンジャーマンで賑やかになった。
「ろーい」
「うん、いい出来だ」
 ロイの言葉にハボックはピョンピョンと飛び跳ねる。嬉しそうにツリーの周りを駆け回るハボックにロイが言った。
「ハボック、おいで」
 呼ばれてハボックは駆け回るのをやめてロイのところにやってくる。小首を傾げて見上げてくるハボックに、ロイはトレイに一個だけ残してあったジンジャーマンを差し出した。
「これはお前のだ、ハボック。宝箱に入れておけ」
 言われてハボックは空色の目を見開く。受け取ったジンジャーマンとロイとを嬉しそうに交互に見つめた。
「ろーい」
 礼を言うようにハボックはロイの手に柔らかい頬をすり寄せる。そんなハボックの頭を撫でて、ロイはにっこりと笑った。


2011/12/23


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