第三十六章


 一緒にツリーを飾ってからというもの、キラキラと色とりどりに輝くツリーを眺めるというのがハボックの日課になっていた。たくさんのオーナメントが飾り付けられたツリーをうっとりとした顔で飽きることなく見上げていたハボックだったのだが。

「また減ってる」
 リビングに入ってきたロイはツリーを見てため息をつく。ハボックと一緒にたくさんのオーナメントを飾ったツリーは、その下の方の飾りが少しずつ減ってきていた。
「まったくもう」
 ロイはやれやれと肩を落とすとリビングを出て二階に上がる。部屋の扉を開ければ部屋の隅で宝物を入れている小さな箱を開けているハボックの背中が見えた。
「ハボック」
 近づきながら声をかければハボックが振り向く。ハボックの側までやってきたロイは、ハボックが弄っている宝箱の中を見て眉を下げた。
「ハボック、気に入ってくれたのは嬉しいが、オーナメントは飾って楽しむものだぞ」
 ロイはそう言って宝箱の中から赤いガラスの玉を摘み上げる。そうすればハボックが慌てて手を伸ばしてきた。
「ろーいー」
 ハボックはロイの手からオーナメントのガラス玉を奪い返すと宝箱の中に大事そうにしまう。よく見れば宝箱の中にはツリーに飾ってあった筈の金色のベルやらしましまのステッキやらがしまってあるのだった。
「ハボック」
 窘めるようにロイはハボックを呼んだが、ハボックは宝箱の蓋を閉めると小さな手でしっかりと蓋を押さえる。つーんと顔をそっぽに向けて絶対返さないという態度のハボックに、ロイはやれやれとため息をついた。
「まあ、気に入ってくれたと思うしかないか」
 もともとハボックを喜ばせるために用意したツリーだ。どんな形であれハボックが気に入ってくれているなら良しとするしかないのかもしれない。それに綺麗なものが好きなハボックならいずれこうなることは判っていた筈だ。ロイはとりあえずそう考えるしかないかと自分を納得させることにした。

 その夜。
 一度ベッドに入ったあと喉の乾きで目を覚ましたロイは、悩んだものの仕方なしに起きあがると水を飲みにベッドから降りる。寒さに身を縮こまらせて階段を下りかけたロイは、リビングの方からした気配に眉を顰めた。
(なんだ?誰かいるのか?)
 戸締まりはしっかりしたし、古い屋敷は泥棒の目を引くものでもない筈だ。足音を忍ばせてリビングの扉に近づいたロイは、そっと扉を開けてその隙間から中を伺った。そうすれば。
 大きなツリーのてっぺんにふさふさの尻尾が見える。ガサガサと枝に足をかけたハボックが輝く星に手を伸ばそうとしているのが見えて、ロイは大きく目を見開いた。
「ハボック!なにしてるんだっ?」
 思わず大声を上げれば、驚いたハボックが枝を踏み外した。
「ハボック!」
 ザザザとツリーの枝をこすってハボックが床に落ちる。慌てて駆け寄れば仰向けに倒れたハボックがロイを見上げた。
「ろーいー」
 呼んで手を伸ばしてくるハボックをロイは抱き上げる。軽い体が幸いして怪我こそしなかったものの、落ちてビックリしたのだろう、ハボックはロイに緊(ひし)としがみついてきた。
「ろーいーー」
「まったくお前は」
 しがみついてくる背をポンポンと叩いてロイはため息をつく。体を少し離してロイは空色の瞳を覗き込んだ。
「星が欲しかったのか」
 綺麗なものが好きなハボックから見たら、ロイと一緒に飾ったあの星は最高の宝物なのだろう。ツリーのてっぺんを飾る星を見て、ロイは言った。
「だが、あれまで取ってしまったら流石にツリーとしてどうかと思うぞ」
 そう言えばハボックがショボンと項垂れる。そんなハボックを見てうーんと唸ったロイは、思いついた考えにハボックを下ろして棚に近づいた。抽斗をあけて金色のリボンを取り出す。それは以前買ったクッキーについていたもので、なんとはなしにとっておいたものだった。
「こんなところで役に立つとはな」
 ロイはそう言ってツリーの星を外して代わりにリボンを飾り付ける。外した星をロイがする事を見ていたハボックに差し出した。
「ほら、ハボック。だがもうこれで最後だぞ、いいな?」
 その言葉に頷いてハボックは星を受け取る。キュッと大事そうに抱き締めてロイを見上げた。
「ろーい」
「いいさ、お前が喜んでくれるならそれで」
 ロイはそう言ってハボックの頭を撫でる。
 それからというもの、ツリーの下でハボックは宝箱からオーナメントを出しては並べて眺めるのが、ロイはそんなハボックの隣に運び込んだクッションに寝ころんで本を読むのが、冬の間の日課になったのだった。


2011/12/15


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