第三十五章


「そうか、もうそんな季節なんだ」
 古書店からの帰り道、ロイは通りに並ぶ店先を見て呟く。12月に入って店の店頭や内装にはそれぞれに趣向を凝らしたクリスマスの飾り付けがなされていた。ふと通りに植えられた木々を見ればイルミネーションの小さな電球が幾つもいくつもついている。夜ともなれば一斉に点された電球がきっと幻想的で美しい風景を作り出すのだろう。
「ハボックが外に出られるなら見せてやれるのに」
 ロイはこんな時ハボックが外に出られないのを残念に思う。綺麗なもの可愛いものが大好きなハボックが見たら絶対に喜ぶだろうと思うものがあっても、見せてやることは出来ないからだ。
「写真に撮ったところでなぁ」
 実際に見なければこの心がウキウキとする楽しさは伝わらない。がっかりとため息をついたロイは、通りに出ている露店に気づいて足を止める。この時期限定で出ている露店の店先に並ぶものを見て、ロイは笑みを浮かべた。
「そうか、この手があった」
 ロイはそう呟くと露店に近づいていく。幾つもあるものの中から気に入ったものを選ぶと、超特急で配達してくれるよう頼んで雑貨屋に向かった。そうしてクリスマスカラー一色の店内で目当てのものを買うと、ハボックが待つ家に急いで帰った。

「ハボック」
 家の扉を開けるなりロイは中に向かって呼びかける。そうすればハボックがリビングの扉からひょっこりと顔を出した。
「ろーい」
 一人留守番をしていたハボックは、ロイの姿を見ると嬉しそうに笑って駆けてくる。ぱふんとぶつかるようにしがみついてきたハボックの金髪をわしわしと掻き混ぜてロイは言った。
「今日はいいものを買ってきたんだ」
 ロイがそう言うのを聞いてハボックが期待に目を輝かせる。ハボックを連れてリビングに入るとロイはテーブルの側に膝をついた。
「おいで」
 そう言ってロイはつい今し方雑貨店で買い求めたものをテーブルに広げようする。すると丁度その時、玄関のベルが鳴り響いた。
「お、本当に超特急で来たな」
  品物の金額に上乗せして金を払っただけあっての配達の速さに、ロイは満足そうに言って立ち上がる。ベルに答えるため出ていくロイにくっついて玄関まで行ったハボックは、配達員の男が抱えているものを見て空色の瞳を見開いた。
「急かして悪かったな」
「いいえぇ、こんな可愛いお子さんがいたら早く見せてやりたいですよね」
 男はそう言ってハボックを見る。
「よかったなぁ、こんな立派なの買って貰えて」
 そう言う男が運んできたのはロイの背丈ほどもある大きなツリーだった。
「すまんが中まで運んでくれるか?」
「いいですよ、どちらです?」
「こっちだ」
 ロイに案内されて男はリビングへとツリーを運び込む。一緒に持ってきた大きな鉢に慣れた手つきでツリーを植え込むと、まん丸に目を見開いているハボックの頭をポンポンと叩いて帰っていった。
「どうだ?いいツリーだろう?クリスマスだからな、買ってきたんだ」
 ロイが通りで見つけたのはこの時期限定でツリーを売っている露店だった。外にクリスマス一色の街を見に行けなくても、これならハボックも楽しめると思ったのだ。
「ほら、オーナメントもいっぱい買ってきたぞ。一緒に飾ろう」
 ロイはそう言ってさっき出しかけたオーナメントを机の上に広げる。金色のベルや小さな靴下、しましまのステッキに可愛いリボンがついたプレゼントの箱。色とりどりのオーナメントにハボックは空色の目を見開いて顔を輝かせた。
「ろーい!」
 嬉しくて嬉しくて堪らないというようにハボックはオーナメントを手にリビングをスキップする。赤いガラスの玉を灯りに翳して見るハボックにロイは笑いながら言った。
「ほら、ツリーに飾るぞ」
 そう言えばハボックがオーナメントを手に駆け寄ってくる。ツリーの下の方をハボックが、上の方をロイが担当して次々と飾り付けていった。
「よし、最後はこの星だ」
 ロイは言ってハボックに金色に輝く星を渡す。目をキラキラさせてそれを受け取ったハボックをロイは抱え上げた。
「ツリーのてっぺんにつけてくれ、ハボック」
 そう言ってロイはハボックが星をつけやすいように支えてやる。ハボックは手を伸ばしてツリーの一番上に大きな星を飾り付けた。
「よし、完成だ」
 ロイはハボックを抱いたままツリーから少し離れる。そうして全体のバランスを見て満足げに笑った。
「いい出来だ。どうだ、ハボック、綺麗だろう?」
 ロイの言うとおり緑の葉陰にたくさんの色とりどりのオーナメントを飾ったツリーは賑やかで可愛くてとても綺麗だった。
「ろーいー」
 ロイの腕の中で背伸びするようにツリーを見ていたハボックがキュッとロイの首にしがみつく。金色の尻尾をふさふさと振ったハボックにチュッと頬にキスされて、ロイは嬉しそうに笑ったのだった。


2011/12/14


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