| 第三十三章 |
| 「今日は冷えるなぁ」 ロイはキッチンで熱いジンジャーティーを淹れるとそのカップを両手で包み込むようにして持つ。フウフウと一口啜るとカップを手に二階へと上がった。 「ハボック」 扉を開けて部屋に入れば、ハボックが窓枠に掴まるようにして窓から外を眺めている。カップを手に近づくと、ハボックが窓枠に掴まったまま外へ向けていた目をロイへと向けた。 「何か見えるのか?」 ロイはカップの熱でほんの少し暖まった手でハボックの金髪を撫でる。そうすれば擽ったそうに首を竦めて、ハボックは再び外へと目を向けた。 窓の外に広がる空はどんよりと曇っている。モノトーンの空の下で、地上も色をなくして寒々しく見えた。 「見てるだけで寒くなるような空だな」 ロイは空を見上げて言うと手にしたカップに口をつける。こんな日は家にこもって本でも読んでいるのが一番と、ロイが椅子に腰を下ろそうとした時。 不意に窓枠に掴まっていたハボックが振り向いたと思うと、カップを持つロイの袖を引く。熱い茶を零しそうになって、ロイは慌ててカップを持つ手を上に上げた。 「こら、ハボック。危ないだろう?」 零れたりしたらロイよりハボックにかかりかねない。メッと目を吊り上げるロイに、だがハボックはもう一度ロイの袖を引く。どうやらカップを置けと言いたいらしい事を察して、ロイはテーブルにカップを置いた。 「どうしたんだ、ハボック……って、おいっ?」 何だと尋ねるロイの手をハボックが引っ張る。それに引かれるように足を出せばハボックはロイを部屋の外へと連れ出した。そのまま階段を下りたハボックが自分を家の外へと連れていこうとしていることに気づいてロイは顔を顰める。思った通りハボックが庭に出る扉に手をかけるのを見て、ロイは言った。 「ハボック、この寒いのに外は勘弁してくれ。何かあるなら口で説明───というわけにはいかんか」 言いかけた言葉を自分で否定するうちにハボックは扉を開けてしまう。その途端ピュウと吹き付ける冷たい風にロイは首を竦めた。 「寒ッ」 中から見ていた以上に外は寒い。それでも構わずハボックはロイの手を引いて庭へと出た。 「寒いっ、せめて上着を」 急速に奪われる熱にロイは往生際悪くそう訴える。それでも中へ戻らせてくれそうにないハボックに、ロイは手を伸ばすとその小さな体を抱き抱えた。 「寒いぞ、ハボック。一体何なんだ?頼むから早く教えてくれっ」 ロイは少しでも暖をとろうとハボックの体をギュッと抱き締める。ハボックはそんなロイの片手を掴むと手のひらを上にして差し出させた。 「ハボック?」 意味が判らずロイがハボックを呼んだ、丁度その時。 ひらり。 ロイの手の上に小さな雪片が舞い落ちる。手の熱であっと言う間に水滴に変わってしまったそれに目を瞠ったロイは、灰色に広がる空を見上げた。 「雪」 一面グレーの空から剥がれ落ちるように雪が降ってくる。落ちてくるそれを目で追えば、ロイの手の上に落ちてスッと溶けて水滴になった。 「ろーい」 呼ぶ声にハッとして腕の中のハボックを見れば小首を傾げてロイを見ている。じっと見つめてくる空色にロイの顔に笑みが浮かんだ。 「雪が降るのを教えてくれたのか」 その年最初の雪を手にすると幸せになれるという古い言い伝え。ハボックがそれを知っているのか確かめる術はなかったが、それでもロイの胸はほんわりと暖かくなった。 「ほら、ハボック。手を出せ」 言われて不思議そうに差し出された小さな手のひらに、ロイは溶けた雪の滴を移す。 「お裾分けだ」 そう言えばハボックが嬉しそうに笑って手を握り締めた。 寄り添う体から伝わる温もりを分けあって、二人はひらりひらりと舞い落ちてくる雪を見上げていたのだった。 2011/12/01 |
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