| 第三十章 |
| 「今日は凄い風だな」 ロイは吹き付ける風に目を細めて呟く。見上げる空は強い風に全ての雲が吹き払われてしまったかのように、真っ青に晴れ渡っていた。 「早く帰ろう、寒くてかなわん」 晴れて陽射しもあるのだが如何せん風が強すぎる。探していた本が入荷したと古書店から連絡のあった帰り道、受け取った本を窓越しの陽射しの中で読みたいと、ロイは足を早めた。 漸く辿り着いた家の門扉を開ければ、風に煽られた庭の木々が大きく枝を振ってロイを迎える。その枝から風に毟り取られるように葉を降らせる様を、横目で見ながらロイは玄関のノブに手を伸ばした。 「うわッ」 その瞬間吹いた突風に煽られ、ロイは慌てて伸ばした手でノブを掴む。そのまま鍵を開け中に入った。 「ただいま」 ロイはそう言いながらキッチンに向かう。手を洗いうがいまでして熱いコーヒーを淹れるとカップと本を手に二階に上がった。 「ただいま、ハボック」 部屋の中、窓枠にしがみつくようにして爪先立ちで外を眺めているハボックにロイはそう声をかける。答える代わりに金色の尻尾を振るハボックの側に寄ると、ロイは小さなテーブルの上にカップと本を置いた。 「凄い風だ。折角の紅葉も終いかな」 この窓から見下ろす庭は紅や黄色の紅葉に緑の木々が混じってとても綺麗だった。見納めかと残念そうに呟いてロイはハボックの金髪をポンポンと叩くと、定位置の椅子に腰掛け本を広げる。待ちかねていた本に瞬く間に没頭すれば周囲の事など目に入らなくなった。 窓越しの陽射しの中、ロイは本を読み続ける。不意に強い風に閉めた窓がガタガタと大きな音を立てたが、ロイは僅かに眉をしかめただけで本から目を離さなかった。だが。 「――――」 誰かに呼ばれたような気がしてロイは顔を上げる。キョロキョロと辺りを見回したが、唯一呼んでくれそうな姿は部屋の中になかった。 「気のせいか?」 ロイはそう呟いて首を傾げる。少し待って本に視線を戻そうとして、ロイは聞こえた声に弾かれたように立ち上がった。 「ろーいー」 微かに聞こえた声に、ロイはバンッと窓ガラスに飛びつく。ガラス越し、びゅうびょうと風が吹き荒れる庭に小さな姿があった。 「ハボックっ?!」 必死に庭木にしがみついているものの、小さな体は今にも風に飛ばされてしまいそうだ。ロイは部屋から飛び出すと階段を駆け下り庭に出た。 「ハボック!!」 ロイは急いで庭を走り上から見た辺りを目指す。風になびくハボックの尻尾をロイが見つけた時。 ビュウウウッッ!! 一際強い風が吹き抜けハボックの足がフワリと宙に浮く。しがみついていた木の幹から離れかけた小さな手をロイががっしりと掴んだ。 「ろーいーー!」 「ハボック!!」 ロイはその手を手繰り寄せるようにハボックの体を引き寄せる。その腕の中に小さな体を閉じ込めホッと息を吐いた。ロイはハボックを抱き締めて足早に家の中に入る。バタンと扉を閉め強い風を遮ってからハボックを下に下ろした。 「どうしてあんな風の中、外に出たりした?!危ないだろうっ?」 こうして子供の姿をしているものの、元々のハボックは小さな毛糸玉だ。その体はとても軽くて強風の前ではひとたまりもなかった。 「ハボック」 厳しい声で名を呼べば、ハボックがロイをじっと見る。そっと握った手を差し出してくるのを見てロイが手を出せば、ハボックはロイの手の上に大事に持っていた物を置いた。 「落ち葉?」 ロイは手のひらに置かれたものを目を見開いて見つめる。それは真っ赤に色づいた一枚の落ち葉だった。ハボックは落ち葉をロイに渡すとパタパタと駆けて二階に上がっていってしまう。落ち葉をじっと見つめていたロイは、視線を二階へと移し、階段をゆっくりと上がった。部屋に入ればハボックは、ロイが帰ってきた時と同じように窓枠にしがみついて外を見ている。ロイは落ち葉を大切に本の間に挟んだ。そうして背伸びしているハボックを抱き上げる。 「今日、全部散ってしまってもお前のおかげでずっと紅葉が楽しめるな」 ありがとう、と囁けばハボックが嬉しそうにロイの頬に金色の頭を擦り付ける。 その日、真っ青に晴れ渡った空に紅や黄色の葉が舞い踊る様を、名残惜しむように二人は窓から眺めて過ごした。 2011/11/07 |
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