第二十八章


「トリックオアトリート!!」
 扉を開ければ満面の笑みを浮かべた髭面のドラキュラが立っている。なにも言わずにロイが扉を閉めようとすれば、ヒューズは慣れた様子で閉まる寸前の扉に足を挟んだ。
「ロイ、そりゃあないだろう?かわいい魔女を閉め出す気か?」
「あ、エリシアじゃないか」
 ヒューズの髭面のすぐ側に可愛らしい幼女の顔があることに、ロイは今更ながらに気づく。ニコニコと笑みを浮かべて見つめられれば流石のロイも扉を閉める事は出来なかった。
「ほら、エリシアちゃん、なんて言うんだっけ?」
 ヒューズにそう言われてエリシアはちょっと首を傾げる。それからニコーッと笑うとロイに向かって言った。
「トリックオートリトーッ」
「すごい!エリシアちゃん、よくできたねぇぇッッ!!」
 エリシアの言葉を聞いたヒューズがだらしなく顔を弛めて褒めまくる。親バカ全開の友人にあからさまにうんざりとしたロイは、それでも奥からお菓子の包みを持ってくるとエリシアに差し出した。
「親はバカだが娘はかわいいな。魔女か?」
 黒いとんがり帽子と黒いドレスはぷっくりとまあるい頬の幼女によく似合っている。素直に褒めるロイにヒューズは自慢げに言った。
「そうだろう、そうだろう。街で、いやアメストリスで一番かわいい魔女だろうッ?」
 ニマニマと笑いながら言う親バカにロイは言いたいこともあったがなんとか口を閉じていることに成功した。
「ところでハボックちゃんは……あっ、ハボックちゃん!」
 きょろきょろと見回したヒューズは扉の陰から覗いているハボックに気づいてニカッと笑う。ハボックが普段の服を着ているのに気づいて、ヒューズは唇を尖らせた。
「えーっ、なんでこの間あげた服着てないのっ?!せっかくハボックちゃんに似合うと思って持ってきたのに!」
「ヒューズ、お前な……」
 確かにメイド服を着たハボックは可愛かった。そして今日はハロウィンだ。だが、若い男が男の子にメイド服を着せて喜んでいたら世間はなんと思うだろう。
「ロイ!早くメイド服着せてあげろって!なぁ、ハボックちゃんも着たいだろう?この間のメイド服っ」
 とは言えこの男に世間の常識が通用するはずない。短くもないつきあいの中、いやでも気づかされた事にロイが仕方なしにしまってあった服を持ってきた時、エリシアがヒューズの顔を見て言った。
「パパぁ、うん出たぁ」
「えっ?」
 そう聞いてヒューズはロイを押しやるようにしてリビングに入る。背にしていた大きなバッグの中からシートを取り出しながら言った。
「ロイ、手伝え!」
「……って、おい、ここでおむつ替えする気かっ?」
 片手でエリシアを抱き、片手で大きなシートをソファーに広げようと悪戦苦闘するヒューズにロイが慌てて言う。嫌そうなその声にヒューズはキッとロイを見た。
「なんだ、文句あるのかッ?早く変えてあげないとエリシアちゃんが可哀想だろうッ」
 それは確かにそうなのだが、とロイが狼狽えているとハボックがなかなか上手く広がらないシートの端を持ってソファーに広げた。
「おお、ハボックちゃんっ、ありがとう!」
 そう言えばハボックが嬉しそうに笑う。
「手伝ってくれるの?じゃあ、バッグの中からおむつとお尻拭き出してくれるかなぁ」
 ヒューズに言われてハボックはバッグに潜り込むようにして中のものを取り出すと、尋ねるようにヒューズを見た。
「ああ、そうそう、それと……あっ、そっちの手に持ってる奴!」
 ハボックに言いながらヒューズはシートの上にエリシアを寝かせ、スカートを捲りあげる。おむつに手をかけようとしたヒューズは、ハッとしてロイを見上げた。
「お前っ!なに見てんだッ!」
「えっ?」
 ヒューズはバッと捲りあげたスカートをおろして立ち上がる。狼狽えて立ち尽くしていたロイにズイと顔を近づけて言った。
「俺の大事なエリシアちゃんのおむつ替え、見てんじゃねぇよ!お前のイヤラシい目で見られたらエリシアちゃんが穢れるだろうッ!」
「なっ……あのなぁッ!」
「出てけッ!」
 ドンッと手で胸を突いてヒューズはロイを追い出す。無理矢理リビングの外へ追い出されながらロイは言った。
「ハボックは?ハボックはいいのかっ?」
「ハボックちゃんはそんなイヤラシい目で見たりしない。いいな、入ってきたら殺すぞ」
 ヒューズは目を眇めて言うとリビングの扉をバタンと閉める。
「私がいつエリシアをイヤラシい目で見たっていうんだッ!おむつもとれてない幼女に欲情するかッ!!」
 閉め出されてそう怒鳴ったものの、ここで無理に中に入れば何を言われるか判らない。チッと舌打ちして大人しく待っていれば、少ししてリビングの扉が開いた。
「ろーい」
「ハボック」
 扉を開けてくれたハボックを見ればいつの間にかメイド服に着替えている。やれやれとため息をつきながらもハボックを抱き上げれば、ハボックは嬉しそうにキュッとロイの首にしがみついた。


2011/10/27


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