| 第二十七章 |
| 「うーん」 長いこと本を読んでいたロイは、凝り固まった体を解そうと思い切り伸びをする。爽やかな気候が続く今日この頃、読書にはうってつけの季節であり、ロイは時間も忘れて読書に没頭する日が続いていた。 「ハボック……いないのか」 最初のうちはロイに構って欲しがったハボックだったが、最近はロイが読書を始めたらなにを言っても無駄と悟ったらしく、一人で遊びに出ていることが多い。今日も気がつけば小さな金色の姿は部屋の中にいなかった。 「どこに行ったんだ?」 側にいないとなると何となく気になるのも最近の常で、ロイはハボックの姿を探す。窓から庭を見下ろせば、木々の合間にハボックの金色の尻尾が揺れているのが見えた。 「なにをしてるんだろう」 二階から見下ろしたのでは何をしているのか判らない。ロイが窓から顔を出して呼べば、ハボックが木の下から出てきてロイを見上げた。 「何をしているんだ?」 そう聞かれてハボックは自分のシャツの中を見る。ハボックはシャツの裾を持ち上げて、その中になにやら拾ったものを入れているのだった。 ハボックは考えるように首を傾げたと思うと、タタタと走って家の中に入る。ロイが待っていれば少ししてハボックが部屋に駆け込んできた。 「ろーい」 ハボックはそう言ってシャツの中に入れたものを見せる。見ればそれは色も形も様々などんぐりだった。 「こんなに色んなどんぐりが落ちてたのか」 確かにここの庭はまるで見本のように色々な種類の木が一本ずつ植えられている。そうであればこんな風に形の違うどんぐりが落ちているのも納得出来た。 「懐かしいな。あ、帽子被ってる」 ロイはそう言って殻斗のついたどんぐりを摘み上げる。 「小さい時、この帽子を被ったどんぐりが欲しくてな、一生懸命探したよ」 そう言いながらロイが戻したどんぐりを、ハボックが摘んでロイに差し出した。 「くれるのか?」 尋ねるロイにハボックがにっこりと笑う。ロイは茶色く輝くどんぐりをキュッと握って礼を言った。 「お返しと言ってはなんだがいいものを作ってやろう」 ロイは手にしたどんぐりを天使の時計の側に置くと、ハボックのシャツの中からもう一つどんぐりを摘み出す。それを手に廊下に出ると物入れの中をガサガサとひっかき回した。 「確かこの中に……あった、あった」 そう言ってロイは工具箱を引っ張り出す。その中から錐を取り出し、ハボックが待つ部屋の中に戻った。 「ハボック、庭に行って細い枝を探してきてくれるか?短くていいから」 ハボックの前にしゃがみ込んでそう言えば、ハボックはシャツに貯めたどんぐりをそっとビロードのトランクの中にあけて部屋を飛び出していく。ハボックが枝を探しに行っている間にロイは床に座り込むと、どんぐりのお尻に錐で穴を開けた。 「こんなものか」 どんぐりの表面についた粉をフッと吹いて飛ばした時、ハボックがパタパタと戻ってくる。ハボックはギュッと握った手のひらを差し出してロイの前で開いて見せた。 「いいぞ、これなんか丁度よさそうだ」 ロイがそう言って中の一本を取り上げればハボックがうれしそうに笑う。ロイは抽斗からナイフを取り出し少し枝を削ると、錐で開けた穴に差し込み適当な長さで切り落とした。 「これでよし。見てろ、ハボック」 ロイはハボックにどんぐりの独楽を見せてニッと笑う。床に座り込んでロイは慎重に枝の先っぽを摘んだ。 「いくぞ」 言うと同時にロイは指先をクッと捻る。そうすればどんぐりの独楽は床の上をくるくると回った。 「よし!」 グッとガッツポーズをしてみせるロイと独楽をハボックが顔を輝かせて交互に見る。くるくると回っていた独楽はやがて速度を落とし、ころんと床に倒れた。 「ろーいー」 訴えるように呼んでくるハボックに笑ってロイは独楽を拾って渡す。 「ほら、お前もやってみろ。こうやって回すんだ」 ロイのする事を見よう見まねで何度か試していくうちに、段々と独楽が回るようになってくる。クッと勢いつけて捻れば独楽はハボックの小さな手を離れてくるくると回った。 「ろーい」 「上手いぞ、ハボック」 褒められてキラキラと目を輝かせてハボックが笑う。 「よし、もう一個作ってどっちが長く回せるか競争しよう」 ロイはどんぐりに穴を開けてもう一つ独楽を作った。 「どっちがいい?」 手のひらに二つの独楽を載せてハボックに見せればハボックがうーんと悩む。散々悩んでハボックが選ぶとロイが残った方を取った。 「よし、勝負だ、ハボック」 よーい、と独楽を構えればハボックが顔を輝かせてロイを見る。 「ドン!」 そうやって何度も独楽を回しては、笑いあう二人だった。 2011/10/24 |
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