第二十六章


「まったく……キリがないな」
 ロイは落ち葉をかき集める箒の手を止めてそう呟く。そう呟く間にもはらはらと赤く色づいた葉が舞い落ちて、ロイはうんざりとため息をついた。
「もうやめた」
 ロイは吐き捨てるように言って箒を放り出す。集めた落ち葉もそのままに、ロイは家の中に戻った。キッチンでコーヒーを淹れカップを手にリビングに入る。ドサリとソファーに腰を下ろし、窓の外を見てやれやれとため息をついた。
 普段、庭の手入れは庭師を定期的に入れている。だが、この季節ともなれば枯れ葉が庭に降り積もり、不精者のロイをしても流石に庭師が来るまで放っておけず、重い腰を上げたのだが。
「いっそ全部常緑樹に植え替えるか?」
 赤や黄色に色づいた葉は見ている分には綺麗だが、散って枯れてしまえばゴミでしかない。
「明日にでも手入れを頼もう……」
 ロイはうんざりと呟いて本を手に取った。


「ろーい」
 どれくらい時間が過ぎたのだろう、呼ぶ声にロイは本から顔を上げる。近くに声の主は見当たらずきょろきょろと見回せば、庭に面した窓からハボックが顔を覗かせている事に気づいた。
「ハボック、何をしているんだ?」
 ロイは本を置いて窓辺に近づく。ロイが気づいてくれた事で窓にしがみつくのをやめたハボックが窓の下に立っているのに尋ねれば、ハボックはロイを誘うように窓から少し離れた所まで行き振り向いた。
「なにかあるのか?」
 ハボックがこんな風にする時は見せたいものがあるのだ。ロイはリビングから出て庭に回ると、庭の隅に向かうハボックの後を追った。
「ハボック、一体なにが……これがどうかしたか?」
 ハボックがやってきたのはさっきロイが掃き集めた落ち葉の山だ。訝しげに眉を顰めるロイをハボックが見上げた。
「ろーい」
 ハボックはそう言って落ち葉の山目掛けて両腕を広げて飛び込む。ぱふんと落ち葉に身を預けるハボックを見て、ロイは山に手を伸ばした。
「暖かい……」
 秋の陽射しに照らされて積んだ落ち葉が暖まっているのだ。落ち葉の色を見ればまるで葉そのものが柔らかい熱を放っているようにも見えた。
「ろーい」
 落ち葉のベッドを抱き締めてハボックがロイを呼ぶ。気持ち良さそうに揺れるフサフサの尻尾を見て、ロイは笑みを浮かべて仰向けに落ち葉の山に倒れ込んだ。ほんのりと暖まった落ち葉に身を預けて見上げれば、大分葉が少なくなった枝の向こうに晴れ渡った秋の空が見える。
「お前はいい場所を見つけるのが本当に上手いなぁ、ハボック」
 散ってしまえばただのゴミだなどと思った自分がほんの少し恥ずかしい。嬉しそうに笑ってすり寄ってくる金色の頭を撫でながら、ロイは気持ち良さそうに目を細めた。


2011/10/13


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