第二十五章


「よお、ロイ」
 チャイムの音に玄関を開ければ満面の笑みを浮かべた髭面の男が立っているのを見て、ロイは無言のまま開けた扉を閉めようとする。そうすればヒューズが閉まる寸前足を挟んで、扉が二人の間を隔てようとするのを阻んだ。
「折角来たのにそれはないだろう?」
「……何しに来た、ヒューズ」
 タッチの差で扉を閉め損ねたロイが低い声で問う。明らかに帰れ、迷惑だと告げる声音などものともせず、ヒューズはニコニコと笑いながら言った。
「ハボックちゃん、いる?」
「生憎ハボックは不在だ」
 だから帰れと強引に扉を閉めようとするロイと何とか入り込もうとするヒューズとで、ガタガタと扉を引っ張りあう。その時、パタパタと背後で軽い足音がして不思議そうな声が聞こえた。
「ろーい」
 扉のところでなにやら揉めているロイをハボックがキョトンとして見上げる。扉の隙間からその姿を見たヒューズが目を輝かせてドンと体ごと扉に当たってきた。
「ハボックちゃんっ、久しぶりッ!覚えてる?マースくんですよぅ」
 そう言いながら隙間から手を差し入れるヒューズにロイはため息をついて渋々と扉を開ける。扉が開いた途端ヒューズが嬉々として飛び込んできた。
「ハボックちゃーんっ」
 そのあまりの勢いにハボックが驚いてロイの後ろに隠れる。ロイの陰からそっとヒューズの様子を伺うハボックの金色の頭を撫でながら、ロイが不機嫌に言った。
「で?何しに来た」
 ハボックに近づこうとするヒューズから、ロイが立ちふさがってハボックを庇う。聞かれてヒューズはそうだったと持ってきた紙袋に手を突っ込んだ。
「もうすぐハロウィーンだろ?だからハボックちゃんに衣装をもってきたんだよ〜」
 ヒューズはそう言いながら取り出した衣装を広げる。ジャジャーンと広げたそれを見て、ロイは目を見開いた。
「……ヒューズ」
「どう?可愛いだろッ」
「私にはメイド服に見えるんだが」
「メイド服だもん」
 ヒューズは楽しそうに言いながらハボックに服を差し出す。ロイは差し出された服をパンッと叩いて言った。
「ハロウィーンの衣装だろう?なんでメイド服なんだ?魔女とかドラキュラなら判るがどうしてメイド服?!」
「可愛いからっ」
 髭面を輝かせてそう言うヒューズにロイは目眩がする。ロイがフラフラとしている間にヒューズはハボックの前にしゃがみ込んで服を差し出した。
「着てごらん、ハボックちゃん。絶対似合うからっ、ねっねっ」
「ヒューズっ」
 キョトンとするハボックに服を押しつけるヒューズの頭をロイが殴る。ヒューズは頭を撫でながら唇を尖らせた。
「いいだろ?絶対可愛いって」
 ヒューズはそう言ってハボックに向き直る。
「はい、ハボックちゃん。これ着たらロイが喜ぶよ〜」
「おい」
 ヒューズが口にしたとんでもない事にロイが目を吊り上げたが、ロイが喜ぶと聞いてハボックはパッと顔を輝かせる。それを見ればヒューズがここぞとばかりにハボックに服を勧めた。
「はい、ハボックちゃん、着てみましょうね〜」
「ヒューズッ!!」
「ろーい」
 止めようとするロイにハボックがヒューズから受け取った服を嬉しそうに差し出す。白いレースのひらひらに一瞬怯んだロイの隙を見逃さず、ヒューズはハボックの手を取った。
「じゃあ着てみようか、ハボックちゃんっ」
「あっ、こらッ」
 ハボックをひっさらうようにしてヒューズは手近の部屋に飛び込むと鍵をかけてしまう。開けろと空しくロイが扉を叩く間にヒューズはハボックにメイド服を着せて、嬉しそうに部屋から出てきた。
「どうだ、可愛いだろッ!」
 ヒューズがニマニマとだらしなく顔を崩しながら言うだけあって、白いレースのエプロンも可愛らしいメイド服はハボックによく似合っている。黒いスカートの下からふさふさの尻尾を覗かせて、ハボックは期待に満ちた目でロイを見上げてしがみついてきた。
「ろーい」
 キュッと脚にしがみついてニッコリと笑われて、ロイはそれは間違っているからと言えずに口ごもる。
「ほーら、ロイも可愛いって喜んでるぞ」
「ろーいー」
「ヒューズ、お前……ッ」
 ヒューズにキッと言いかけてもその都度満面笑顔のハボックに抱きつかれれば。
(後で絶対消し炭にしてやる)
 心の中でそう決意して、顔ではハボックにひきつった笑みを返すしかないロイだった。


2011/10/08


→ 第二十六章