| 第二十四章 |
| 「コーヒー豆と卵……本は取り寄せを頼んだし、これで全部か?」 ロイは店を出たところで立ち止まり手の中のメモを見る。買い物も用事も、今日しておいた方がいいことは全部済ませたようだと確認して、ロイは家に向かって歩きだした。 この間までの残暑が嘘のように空は高く晴れ渡り、吹く風は爽やかに乾いている。そんな中、荷物を抱えて歩いていたロイはふと路地の奥に見える小さな空き地に金色の穂が揺らめいている事に気づいた。 「 ロイは角を曲がり路地の奥へと歩いていく。空き地では青空の下、金色に輝く薄が風にさわさわと揺れていた。 「気づかなかったな、こんなところに薄が生えていたなんて」 そう思ったロイはどうして薄に気が付いたかにふと思い至って目を細める。 「そうか、似てるんだ」 ロイは頭に浮かんだその姿に楽しそうに笑みを深めると手を伸ばして薄の穂を何本か折りとった。 トランクの中、うとうとと微睡んでいたハボックは、窓から入り込んだ爽やかな風に閉じていた目を開ける。金髪の中に埋もれるように伏せていた犬耳をピンと立てれば階下の物音が聞こえて、ハボックは眠そうだった顔をパッと輝かせトランクから飛び出した。そのまま階段を駆け下り書斎へと飛び込む。本棚から取り出した本を立ったまま広げているロイの姿を見つけて、ハボックはロイに飛びついた。 「ろーい」 「ああ、ハボック、ただいま。いい子にしてたか?」 そう言って金髪を優しく掻き混ぜるロイの脚にハボックはうれしそうにしがみつく。その時、ロイの背後に揺れる金色のふさふさに気づいてハボックは目を瞠った。 「ん?ああ、これか」 ロイは己の脚にしがみついたまま目を見開いている子供に気づいて肩越しに振り向く。さっき空き地でとってきた薄を束ねて腰から尻尾のように下げたものを見下ろして言った。 「どうだ?お前とお揃いだぞ」 言われてハボックは自分のお尻を見る。ズボンにあけた穴から生えているふさふさの金色の尻尾と、ロイの薄を見比べてハボックは目を輝かせた。 「ろーい」 ハボックは嬉しそうにロイを呼んで金色の尻尾を振る。それを見たロイが腰を左右に振れば、薄の穂がふさふさと揺れた。その動きを見てハボックは大喜びしてロイの周りを駆け回る。己の尻尾と同じ金色の穂の動きにあわせて尻尾を振って踊っていたハボックは、興奮してロイの尻尾にぴょんと飛びついた。そうすれば。 パサリ───音を立てて薄の尻尾が床に落ちる。突然抜けてしまった尻尾に、ハボックは仰天して凍り付いた。 「……ッッ!ッッ!!」 床に落ちた薄の尻尾を呆然として見つめたハボックは、次の瞬間薄に飛びつく。半泣きに顔を歪めてロイの尻に薄を戻そうとすれば、漸く薄が落ちたことに気づいたロイが「あれ?」という顔で振り向いた。 「ああ、落ちちゃったのか」 ロイはそう言いながらハボックの手から薄を取り上げる。振っていたせいで乱れた穂を撫でて直していたロイは、ハボックが大きく見開いた空色の瞳に涙をいっぱいにためて見上げてきている事に気づいた。 「ハボック?」 「ろーいー」 どうしたのかと名前を呼べばハボックが薄の穂にしがみつく。それを見たロイは、ハボックを驚かせてしまったことに気づいて慌ててハボックを抱き締めた。 「すまん、これは本物の尻尾じゃないんだ」 ロイはそう言いながら薄をハボックに見せる。 「これは薄だ。空き地に生えているのを見つけてな、お前の尻尾みたいだと思ったから取ってきたんだよ」 薄を見た途端浮かんだハボックの姿に、見せたら喜ぶだろうと薄を取ってきた。ただ見せるのも詰まらないと、浮かんだ姿を真似て腰に括りつけてみたのだが、思わぬところでハボックを驚かせてしまったらしい。 「驚かせて悪かった。でもほら、お前の尻尾にそっくりだろう?お揃いにしてみたかったんだよ」 ロイは言ってハボックの目の前で薄の穂を振ってみせる。ふさふさと揺れる薄と己の尻尾を見比べたハボックは、ロイの手から薄を取ると訴えるようにロイを見つめた。 「もう一度お揃いにするか?」 そう尋ねれば頷くハボックに答えてロイは尻尾をつけ直す。お揃いの金の尻尾にニッコリと笑うハボックの笑顔を見て。 ロイはその日一日薄の尻尾をつけて過ごしたのだった。 2011/10/04 |
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