| 第二十二章 |
| 「そうか、今日は満月だったな」 ロイは窓から見える月を見上げて呟く。ビロード張りのトランクの中に座り込んでコレクションを並べているハボックを見下ろして、ロイは言った。 「ハボック、庭に出ないか?」 そう言われてキョトンとするハボックにロイは続ける。 「今日は満月なんだ。今時分の月は綺麗だぞ、せっかくだから外で見よう」 そう言って部屋を出ていくロイの後をハボックは慌てて追う。急いで階下に下りればキッチンに寄り道したロイがグラスを出しているのを見て、ハボックは不思議そうに首を傾げた。 「月見酒だよ、ハボック」 ロイはウィンクして言うとトレイにグラスを二つと以前ヒューズが持ってきた酒と井戸の水を詰めたボトル、つまみになりそうなチーズやハムを載せる。それを手に庭に出ると、小さなベンチに腰掛けた。 「おいで、ハボック」 ロイは言いながら自分の隣を指さす。隣に並んで腰掛けたハボックにお気に入りのグラスを渡し、ロイは水のボトルを手に取った。 「お前にはこっち」 ハボックの手の中のグラスにロイはコポコポと水を注ぐ。 「私はこっちだ」 と、ロイはハボックのグラスに注いだ水と同じように透明な酒を自分のグラスに注いだ。 「ほら、ハボック」 そう言いながらロイはハボックのグラスに己のそれをチンと当てる。 「乾杯」 にっこり笑ってグラスを口に運べば、ハボックがパッと顔を輝かせた。 「ろーい」 ハボックはそう言いながら両手で握り締めたグラスを差し出してくる。ロイはもう一度グラスを合わせてやりながら言った。 「“乾杯”だ。ハボック」 「ろーい」 一応ロイが言ってみるもののハボックは相変わらずの調子でそう言うとグラスの水を飲む。それにクスリと笑ってロイは梢の先にかかる月を見上げた。 「いい月だなぁ、ハボック」 日中はまだ暑いものの陽が落ちればだいぶ涼しくなってきた。そよそよと吹き抜ける風を感じながらロイは月を見上げて言った。 「こんなにまん丸で明るいと月の模様がよく見えるな。ほら、ハボック。月の上にウサギがいるぞ」 そう言えばハボックが首を傾げる。ロイはグラスを持っていない方の手で月を指さした。 「あそこだ、判らんか?こう、横向きに耳の長いのがいるだろう?」 言いながら少し顔を横に倒すロイの真似をしてハボックも顔を横に倒す。するとハボックの金髪から覗く犬耳がにゅっと細く伸びたのを見て、ロイは目を瞠った。 「お前、そんな事が出来るのか?」 柔らかい毛を纏ったまま長く伸びた耳にロイはそっと手を伸ばす。その柔らかい手触りを楽しみながらロイはクスクスと笑った。 「ははは、犬じゃなくてウサギだな」 楽しそうなロイの様子にハボックも笑って耳を揺らす。ロイはボトルを取るとハボックのグラスに水を注ぎ足した。 「ほら、飲め。ハボック」 そう言って己のグラスを掲げれば、ハボックがなみなみと注がれたグラスをチンと合わせる。 「ろーい」 そうやって二人はグラスを交わしながら、夜空に輝く満月を楽しんだのだった。 2011/09/12 |
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