変化6〜鬼


「じゃーん!遊ぼう!」
「遊ぼうよ、じゃん!」
 村の子供たちが口々に言いながらはぼっくの家の扉を叩く。
「ああ、いいよ。何して遊ぼうか」
「肩車して!」
「あたしも!」
「おれも!」
「判った、判った、順番な」
 我先にとしがみついてくる子供たちに笑って答えながら、はぼっくの心は深い悲しみに閉ざされていた。


 今はこうして子供たちと遊ぶはぼっくはかつて村の嫌われ者だった。何故なら彼は村の中でただ一人輝く金色の髪と天空を切り取ったような空色の瞳をしていたから。黄色い肌の村人達の中で白い肌は更に彼の違いを際立たせ、大柄な体も相まって村人達をはぼっくから遠ざけていた。
「鬼だ」
「鬼の子が来たよ」
 はぼっくを見る度村人達はそう囁いて扉を堅く閉ざした。はぼっくが何とか仲良くなりたいと山で集めた茸や山菜を持ってきた時ですら、村人達ははぼっくと会おうとはしなかった。それどころか。
「出ていけ!」
「ここは鬼が来るところじゃない、出ていけっ!」
 村人達はそう怒鳴って石を投げつけたから、はぼっくは小さく身を縮めて逃げ帰るしかなかった。


 ある日、どんなに虐げられても諦めようとしないはぼっくの姿に、たった一人の友人であるろいが言った。
「私が陰陽師の力を使って暴れるからお前がそれを止めろ。そうすれば村を守った英雄だと村人達もお前を受け入れるだろう」と。
 はぼっくは迷った末ろいの提案を受け入れ、村を狂った陰陽師から救った英雄と全ては上手くいったかのように思えた。だが。
 漸く村人達と仲良く暮らす事が出来るようになったと礼を言うために訪れたろいの家ではぼっくが見たものは、別れを告げる一通の手紙と住む人のいなくなった家。狂った陰陽師を演じたからは、はぼっくと仲良くするところを村人達に見られる訳にはいかないと、ろいは一人村を離れ遠くへと去ってしまっていた。


 残された手紙に記されたろいの言葉。
『望みを叶えたお前がいつまでも幸せであるように』
 こんなのは望んでない。オレが望んだのはこんな事じゃない。
 はぼっくは手紙を握り締めて思う。確かに村人達と仲良く暮らすという望みは叶えた。だがその代償は余りに大きく、失ったものの大きさを失って初めて気がついて。
「ろい……ろい…っ!」
 何事にも代えられないものを失ってはぼっくは空に向かって泣き叫ぶ。だが、今自分の手にあるものがろいが自分のあるべき場所と引き換えに与えてくれたものと思えば捨てることも出来ない。ろいを追いたくて、でも出来なくて。
(ろい……)
 かつて鬼と呼ばれた青年がその心を人として繋ぎ止めていたものを失って、本当の鬼となり果てるのはそれから間もない時のことだった。


2010/09/15


お題6「鬼」です。読んでて気付かれた方もいるかと思いますが、ベースになってるのはあの児童文学です。「鬼」と聞いて最初に浮かんだのがあのお話だったのでハボックで書いてみました(笑)ほら、昔は異人さんを見て日本人との容貌の違いに「鬼」と思ったりしたそうだから。きっとどこぞの異人に村娘が手込めにされて生まれたのがハボックかと(苦笑)しかし、本当はもっとこう切ない感じにしたかったんですが、なんか説明臭くなっちゃった。がっくし。切ないお話が上手く書けるようになりたいですー。


続きを書いてみました…………「変化6〜鬼 その後」