4.手首


「ハアッ……ハッ…ああ……」
 昏く薄闇に沈んだ寝室の中、オレの激しい息遣いが広がっていく。けだるい快感に全身を支配されて、オレはぐったりと大佐の胸に体を預けていた。
「可愛いよ、ハボック……」
「あっ」
 大佐の声が耳に吹き込まれたと思うとカリと耳朶を噛まれる。ぞくんと走る快感が達したばかりの楔に響いて痛い程だった。
 思考がついていかない。大佐がオレを愛してるって、大佐のものになれって言われて、信じられないけどでも嬉しくて。キスされて体を触られて、それから?
 オレはまだ収まらない動悸に呼吸を弾ませてぼんやりと前を見る。そうすればしどけなく脚を開いた誰かがオレを見返してきた。大きく開いた脚の付け根、半ば勃ち上がった楔を白濁に汚しているのが誰か気づいた時、オレはギョッとして体を起こそうとした。
「やっ、やだッ」
 寄りかかっていた大佐の体から身を離し、脚を閉じようとする。だが、大佐が一瞬早くオレの動きを封じ、結局オレは全く体勢を変えることが出来なかった。
「大佐っ、離してっ」
 胸を弄られてイったなんて信じられない。それもその様を目の前の鏡に映し出されるのを見て興奮して。でも、体に残る甘い余韻と、何より下肢を汚す白濁がオレが女のように胸を弄られてイった事を物語っていた。
「どうして?悦かったんだろう?こうして胸を捏ね回されて悦くて堪らなかったんだろう?」
「い、言わないで…ッ」
 そんな風に言葉にされたら恥ずかしくて堪らない。またオレの胸を弄り出す大佐の指の動きにビクビクと体を震わせて、オレはギュッと唇を噛み締めて目を閉じた。
「恥ずかしがる必要はない。私はお前に感じて欲しくてしてるんだから」
「アッ……でもっ」
 キュウと胸を強く摘まれてオレは喉を仰け反らせて首を振る。どうしてこんなに感じてしまうんだろう。胸だけじゃない。大佐に触れられるとどこもかしこも燃えるように熱くなる。もしかしたら焔を生み出す指先を触れさせるだけで、大佐はオレの体に火を灯せるのかもしれない。
「可愛いことを」
 オレが思った事を口にすれば大佐がクスクスと笑う。笑う吐息が首筋にかかっただけで、オレの中心はとろりと蜜を零した。
「も……やだ」
 自分の体なのにコントロールがきかない。どうしていいのか判らず混乱すれば、戸惑いが涙になってオレの瞳から零れた。
「ハボック……」
 背後からオレを抱え込んだ大佐がオレの顔を覗き込むようにして唇で零れる涙を拭う。大佐は片手でオレの胸を、もう片方で白濁に汚れた楔を弄びながら言った。
「怖がるな……何もかも私に任せて曝け出してしまえばいい……」
「大佐……っ」
 大佐は言うけどそう簡単に出来るものじゃない。この年になればセックスの経験はそれなりにあっても、こんな風に身を任せた事はないんだから。
「……当たり前だ。もしお前が私以外の別の誰かにこんな事をされていると考えたら……ッ」
「ヒッ!うあ…ッ!!」
 言うともなしに呟いた言葉を聞き取った大佐が耳元で低く呻いたかと思うといきなり首筋に噛みついてきた。それと同時に摘んだ乳首に爪を立てられ、オレは激痛に悲鳴を上げて大佐の腕を掴んだ。
「痛……ッ、痛いっ、大佐ッ」
 やめて、と震えながら訴える間にも歯と爪が食い込んでくる。ビクビクと震えてオレは必死に言い募った。
「誰も……っ、誰ともシてないっス!……大佐だけ、大佐だけだから…ッッ」
 確かにこれまで男からモーションをかけられたことがなかった訳じゃない。でも、そんな誘いに乗ったことは一度だってなかったし、そもそも男を好きになったのなんて大佐が初めてなのに。
「……」
 痛みをこらえて訴えればフッと肌に突き刺さる感覚が和らぐ。すまない、と大佐が囁く声がしたと思うと痛む首筋を濡れた感触が這った。
「アッ」
 大佐が自分でつけた傷口を舐めてる。ジンジンと痛むそこを何度も舐められればいつしか痛みは甘い疼きに代わり、オレの唇から熱い吐息が零れた。
「イイのか……?」
 オレの変化に気づいて大佐が尋ねてくる。そうだとはとても答えられなかったけど大佐の手の中でオレの楔が高々とそそり立ち蜜を零しているのを見れば、口にせずとも答えているのと一緒だった。
「イヤラシいな、ハボック……」
「ッ!」
 舌を這わせながら大佐がククッと笑う。自分の体の変化が信じられなくてオレはふるふると首を振った。
「なん……なんでっ?……アンタに弄られると、オレ、おかしくなっちまう……ッ」
 こんなの、オレじゃない。胸を弄られて、痛む箇所を舐められて感じるなんて、そんなことあるわけないのに。
「言ったろう?全部私に任せて……お前は素直に感じればいい」
「そんな……ッ、…アッ?ヤアッ!!」
 そそり立つ楔を大佐が激しく扱く。そうすればたちまち追い上げられて込みあがる射精感をオレは脚を突っ張ってなんとか耐えようとした。
「たい……大、さッ!」
 シーツをくしゃくしゃにしてオレは脚を突っ張る。鏡の中で背後からオレを抱え込んだ大佐がうっとりと笑った。
「イけ、ハボック」
 そう言うのと同時に大佐の爪が鈴口を引っかく。その刺激に耐えきれず、オレはぶるりと震えて熱を吐き出した。
「あ……アア─────ッッ!!」
 大佐の肩に頭を預けて高い嬌声を上げる。びゅくびゅくと迸った白濁が飛び散って鏡の中のオレを濡らした。
「ふ……あ……」
 ぐったりと大佐に寄りかかり荒い息を零すオレの唇に大佐が濡れた指を近づける。青臭い匂いが鼻をついたと思うと、唇にオレが吐き出したものが塗り付けられた。
「あ……」
 お世辞にも旨いとは言えない筈のそれをオレは舌で舐めとって味わう。そうすればゾクゾクと背筋を快感が駆け上った。
「たいさ……」
 キスして欲しい。不意にそんな感情が沸き上がってオレは首を捻って腕を伸ばす。苦しい体勢ながらキスを強請るオレに、大佐は笑ってキスしてくれた。
「ん……んふ……」
 くちゅくちゅと唾液を混ぜあい舌を絡める。それだけで体が蕩けるように甘くて堪らなく幸せだった。暫くの間そうやってキスを続けていたが、流石に無理な体勢に辛くなってくる。なんとか体の向きを変えて大佐と正面から抱き合いたかったけど大佐はそうさせてくれなかった。
「たいさぁ…ッ、そっち向きたい……大佐の顔、見たいっス!」
 いやいやと首を振ってそう言えば大佐がオレの耳に囁く。
「それなら、ほら……鏡を見ればいい。私の顔が見えるだろう?」
 その言葉に顔を上げれば大きな鏡に映る大佐の顔が見える。でもそれと同時にしどけなく脚を開く自分の姿も否応なしに目に飛び込んで、オレは激しく首を振った。
「イヤだ、これ……っ、恥ずかし…っ!」
「何故?私に愛されるのは恥ずかしい事か?」
「そうじゃなくて……っ」
 大佐にされるのは恥ずかしいけど嬉しくもある。でも、その一部始終を見せられるのは別問題だ。感じてる自分の顔を見るなんて恥ずかしい以外のなにものでもないじゃないか。
「こんなに可愛い顔なのに、何故?それに……これからお前を本当に私のものにするのをその目で確かめなくてどうする?」
「……え?」
 オレを本当に大佐のものにするってどう言うこと?オレは大佐が好きでこの気持ちに嘘はなくて、だったらオレはもう大佐のもんでしょう?
「本当にお前は初心(うぶ)で可愛いな」
 クスクスと笑われてオレは思わず顔を赤らめる。紅い顔で大佐を睨めば大佐は笑いながらすまないと言った。
「可愛いハボック、お前を私のものにしよう」
 大佐はそう言ってオレの左手をとる。手首の内側に痛みが走ってオレは大佐の歯が皮膚を傷つけたのだと気づいた。
「たいさ……?」
 何をされるのか判らず不安に揺れる声で大佐を呼ぶ。そうすれば大佐は同じように傷を付けた自分の左手でオレのそれを取った。オレの左手を捻るように背後に手のひらを向けて指を絡める。指を絡めた左手は手首まで合わさって、大佐がつけた傷から零れる血が互いの肌を濡らした。
「愛しているよ、ハボック」
 大佐は耳元に囁いて二人の肌を濡らす血を右の人差し指で掬い取る。その手を開いたオレの脚の付け根に滑り込ませたと思うと血に濡れた指を双丘の間にグイとねじ込んできた。
「ヒッ?!」
 思いもしないところに指をねじ込まれ、オレは身を強張らせて目を見開く。グググと強引に長い指がオレの中に入ってきて、オレは詰まる呼吸に繋いだ手を握り締めた。
「イ……ア……」
 長い指がオレの中に入り込んだと思うとグニグニと内壁を押すように動き出す。その異様な感覚にオレは微かに首を振った。
「や……だっ、たいさ…っ」
 こんなとこ、自分でだってろくに弄ったことなどない。そんな場所に指を突っ込まれてオレは怖くてたまらなかった。
「いや、たいさ……抜いてっ」
「大丈夫だ、ハボック……傷つけたりしないから」
 大佐はそう言うと指を抜くどころか逆に更にもう一本ねじ込んでくる。気がつけば三本も指を入れられて、オレはろくに身動く事も出来なかった。
「た、いさ…っ」
 クチクチと粘着質な水音がオレの下肢から響く。鏡に目をやれば大きく開いた脚の間で大佐の指が慣らすようにゆっくりと動いているのが見えた。
「ッッ!!」
 淫猥なその光景に思わずギュッと目を瞑る。そうすればオレの中を掻き回す指の感触がより一層感じられて、オレは慌てて目を開けた。
「大佐……やだ、も……ッ、抜いてっ」
 こんなところを弄られて、恥ずかしくて苦しくてどうしていいか判らない。小さく首を振って訴えるオレを大佐は鏡越しに見つめていたが、やがてゆっくりと指を抜いた。
「……ッ、……たいさ……」
 圧迫感がなくなってオレはホッと息を吐く。力の抜けた体を大佐に預けて目を閉じるオレに大佐が囁いた。
「私のものだ、ハボック……」
「……え?」
 その声に目を開ければ大佐の右手がオレの下肢を下から押し上げるようにして抱える。浮き上がった体のすぐ下に熱い塊が押し当てられたと思った次の瞬間、クチ、と音を立ててその塊がオレの中に押し入ってきた。
「な……っ?あ……アアッ!!」
 逃げようにもオレ自身の重みでズブズブと潜り込んでくる。指とは比べものにならない熱さと圧迫感に、オレは目を剥いて身を強張らせた。
「あ……ヒ、ィ……ッ!!」
 苦しい。苦しくて体が二つに裂けてしまいそうだ。逃げるどころかもがくことも出来なくて、オレはただビクビクと震えながら浅い呼吸を繰り返した。
「苦し……ッ、助けて……」
 辛くて苦しくてオレは繋いだ手を必死に握り締めた。
「ハボック……ハボック」
 すると誰かがオレの耳元で囁く声がする。握り締めた手を握り返され、耳や首筋に幾つもキスを落とされてオレはその声が大佐のものだと気づいた。
「ハボック……鏡を見てご覧」
 大佐が耳朶を甘く噛みながら囁く。言われるままぼんやりと視線を向けた鏡の中、大佐に体を預けて大きく脚を開いた双丘の間、大佐の楔がオレを貫いているのが見えた。
「判るか?ハボック……お前の中にいるのが」
 そう言われた途端、ずくんとオレの中に埋められた大佐の楔が息づくのを感じる。オレは漸く大佐の言っていた事を理解して、信じられない思いで鏡の中を見つめた。
「は……入ってる……オレん中、大佐が……っ」
 オレのクチがいっぱいに開いて大佐のモノを咥え込んでる。狭い内部で大佐のモノがドクドクと脈打つのを感じた途端、オレは思わずキュッと力を込めてしまった。
「アッ!」
 そうすれば余計にオレの中に大佐がいるのを感じてしまってどうすればいいか判らなくなる。ピクリとも体を動かす事が出来ず、呼吸もままならずにオレは縋るように繋いだ手を握り締めた。
「たい…たいさ…っ」
「大丈夫、力を抜いていろ、ハボック」
 鏡の中で大佐がにっこりと笑ったと思うとオレの脚を抱え直す。尻を浮かせるようにして楔がズルリと抜かれたと思うと、次の瞬間ズブズブと一気に突き入れられた。
「ヒッ……ヒィィッッ!!」
 大佐はオレの体を抱え込んだままガツガツと抜き差しを繰り返す。鏡の中、大佐のモノをいっぱいに咥え込んだ秘肉が大佐の動きにあわせてめくれ上がり赤く濡れた内壁を覗かせた。
「ヒャアッ!!…アヒ……ッ、アヒィッッ!!」
 熱い肉棒にこすられる度、そこからどろどろと溶けてしまいそうな錯覚に陥る。だが、次の瞬間大佐のモノに一点を突かれて、オレは脳天を突き抜ける快感に目を剥いて背を仰け反らせた。
「ヒィィィッッ!!」
 目の前が真っ白になるような強烈な快感。ガクガクと身を震わせるオレの耳に大佐の声が聞こえた。
「ここがイイんだな」
 そう呟く声と同時に同じ場所をガンガンと突き上げられる。そのたび突き抜ける快感にオレの唇から高い嬌声が上がり続けた。
「ヒゥッ!!ヒアアッッ!!アヒィィッッ!!」
 体がバラバラになってしまいそうだ。強すぎる快感は恐怖にも似て、オレは必死に手を握り締めながら大佐を呼んだ。
「たいさっ……大佐ァ……ッッ!!」
 何度目かに突かれた同時に解放の快感が走り抜ける。キュッと無意識に力を入れたのに少し遅れて体の内側に熱い飛沫が叩きつけられた。全身を支配する快感の中、手首に刻まれた傷の痛みだけがくっきりと浮かび上がる。互いに吐精したのだと気づいたのは強烈な快感に耐えきれず灼き切れた神経が、闇の中にオレの意識を引きずり込んでいった時だった。


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