「ろーいー」 パタパタと軽い足音が聞こえたと思うと涙混じりの声がする。窓辺の定位置で本を読んでいたロイが顔を上げると、ハボックが開けっ放しの扉から入ってきた。 「どうした、ハボック」 タタタと駆け寄ってきたと思うと椅子に座るロイの膝にぱふんとぶつかるようにしがみつくハボックに、ロイは尋ねる。涙目で見上げてくるハボックの背後を覗き込んだロイは、ふさふさとした金色の尻尾に大きな毬栗が絡まっていることに気づいた。 「なんでまたそんなところに」 ロイが目を丸くして言えば、ロイの膝から手を離したハボックが毬栗を取ろうとする。だが、自分の尻尾の毬栗を取ろうと後ろを向けば、尻尾もその動きにあわせて逃げてしまい、結果ハボックはくるくるとその場で回る羽目になった。 「おっ、お前……っ」 尻尾の毬栗を掴もうとしてくるくる回る姿に思わずロイが吹き出せば、ハボックが恨めしげにロイを睨む。ロイは「ごめん、ごめん」と謝りながら立ち上がって本を置くと、ハボックの側にしゃがみ込んだ。 「まあた見事に絡まってるな。どうやったらこんなことになるんだ?」 ロイは苦笑混じりに言いながら毬栗に絡んだハボックの尻尾の毛を少しずつ外してやる。漸く毬を外すと、ロイはくしゃくしゃになった尻尾の毛を丁寧に手で梳いて綺麗に整えてやった。 「よし、これでいいぞ」 ロイがそう言うとハボックが尻尾を確認するように、背後を見ながらくるんと回る。そうして礼を言うようにキュッとしがみついてくるハボックの金色の頭を、ロイはポンポンと叩いた。 「じゃあ、これは捨てるからな」 ロイは外した毬栗を手に窓辺に寄るとそこから庭に投げ捨てようとする。すると慌てて寄ってきたハボックがロイの腕にぶら下がった。 「ろーい!」 「なんだ?捨てちゃいかんのか?」 もう毬栗なぞ見たくもないだろうと思いきや、庭に投げ捨てるのを止められてロイは不思議そうにハボックを見下ろす。伸ばしてくる小さな手に毬栗をそっと載せてやれば、ハボックはそれを手に部屋の片隅に歩いていった。 部屋の隅にはハボックのベッド代わりのビロード張りの小さなトランクが置かれており、最近そこにもう一つ小さな箱が置かれるようになっていた。綺麗なもの、可愛いものが大好きなハボックはトランクの隅に集めたものをコレクションしているのだが、段々と数が増えてトランクがベッドなのかコレクションボックスなのか判らなくなってきたのを見かねたロイが、集めたコレクションを入れるための場所として新たに箱をおいてやったのだ。 ハボックは毬栗を床に置くと、コレクションの箱を開ける。背後から覗くロイの前に、ハボックは箱の中から彼の大事な宝物を出して並べた。 「ああ、そうか。秋なんだ」 ロイは並べられた宝物を見て言う。真っ赤に色づいた楓の葉、ロイが作ったどんぐりの独楽、ハボックの尻尾によく似た薄の穂、コスモスの押し花……。幾つもの“秋”の隣にハボックは茶色い栗が覗く毬を置いた。 「ろーい」 自慢するようにハボックがロイを見上げる。ロイは見上げてくる空色に微笑むと、ハボックと一緒に床に座り込み色とりどりの秋を楽しんだのだった。
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「暗獣」です。今回で秋ネタも終わりです。明日からはもう12月ですね、一年早いなぁ……。今日の東京は最高気温が19度だったんですが、明日は7度だってよ。一日で二ヶ月くらい季節が進むらしい。気温の乱高下が激しいのに体がついていかずしっかり風邪っぴきになってしまいました。かんでも啜っても鼻が垂れる、ポメラ打ちにくいったら(苦)皆さまもお気をつけてお過ごし下さいね。そんなわけで、次回からは冬ネタでーすv
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