| 雪もよ |
| ロイはコートの襟を立てて俯き加減に足早に歩いていく。ポケットから懐中時計を出して時間を確かめると眉を顰めた。 今日は査定の為の調べものをして一日過ごした。図書館が閉まる時間になっても終わらなかったが仕事の関係上そうそう時間がとれるわけでもないロイは、無理を言って閉館後も調べものを続けてしまった。そのせいで「図書館が終わる時間に」と言って決めた待ち合わせの時間は疾うに過ぎ去ってしまっている。いくらハボックでもいい加減待ちくたびれて帰ってしまったことだろう。 (悪いことをした) この一ヶ月というもの、互いに忙しくてプライベートでゆっくり過ごす時間を作れなかった。漸くもぎ取った休日さえ査定が迫っているとなれば貴重な時間で、それでもせめて夜くらいは一緒にと約束の時間を決めた筈だったのに。 ロイは一つため息をついてすっかりと暮れてしまった空を見上げる。夕方から降り始めた雪が昏い空からはらはらと舞い落ちて、まるで空から雲が剥がれ落ちているように見えた。暫く空から舞い落ちる雪を見上げていたロイは、小さく身を震わせて視線を戻すと歩き出す。もういないと判っていても待ち合わせ場所に向かうのは、単にハボックに対する罪悪感を宥めるために過ぎなかった。 コツコツと人通りの少ない通りに靴音を響かせて、ロイは駅前の広場へと入っていく。待ち合わせにと決めた時計台の下に佇む長身を見つけて、ロイは目を見開いて足を止めた。 ジャンパーのポケットに手を突っ込んだハボックは首に巻いたマフラーに顔を半ば埋めている。首を反らすように雪が降ってくる空を見上げて目を細めるハボックは、この寒空にひとりぼっちで立っているにもかかわらず幸せそうに見えた。その様に何故だか胸が痛んで、ロイが顔を歪めた時、空を見上げていたハボックの視線がロイを捉えた。 「たいさ」 ハボックは白い息と共にロイを呼んで笑みを浮かべる。その声にハッとして、ロイはハボックに駆け寄った。 「お前、まさかずっとここで待ってたのか?」 そう言えば鼻の頭を紅くしたハボックが答える。 「そっスよ。約束してたっしょ?」 「だからってお前、こんな時間まで…ッ」 「大佐なら絶対来てくれると思ったし」 そう言って笑うハボックにロイは手を伸ばすとハボックの金髪に積もった雪を払いのける。いつもは柔らかいその髪が寒さで凍り付いているのを見て、ロイは吐き捨てるように言った。 「馬鹿か、お前はっ!もし私が来なかったら一晩中ここにいるつもりかっ?」 「でも、来てくれたっしょ?」 ハボックは軽く頭を振って残った雪を振り落とす。雪が降ってくる空を見上げて言った。 「別に寒くも辛くもなかったっスよ?星が煌めく空もだけど、雪が降ってくる空もアンタの瞳に似てるなぁって思ったらそれだけで嬉しかったし」 そう言うハボックの言葉に寒空に空を見上げてさえ幸せそうだったハボックの姿が蘇る。ロイは胸にこみ上げる切なさと愛しさに泣きそうになってハボックを抱き締めた。 「本当に馬鹿な犬だな、お前は」 そう呟いて冷たい頬に己のそれを寄せれば、寄り添う熱にハボックが嬉しそうに笑った。 2010/01/09 |
「雪もよ」とは「雪の降る中」と言う意味です。寒い雪の中でも相手を想っていれば幸せ。 |