夜雷


 ここのところイーストシティは大気の状態が不安定だ。日中は真っ青に晴れ渡った空の下、地面が溶けるほどの陽射しが降り注いでいるというのに、夕方になるとそれまでの天気が嘘のように真っ黒な雲に覆われてしまう。その雲から地響きがするような雷鳴が響き、夜の街が稲光にカッと白く照らし出された。モノクロの写真のように世界が切り取られて見えて、ロイは雷が鳴り響く中、足早に家に向かって歩く。白く凍りつく世界の中、暖かい家の光が見えてロイは思わずホッと息をついた。駆けるようにして十数メートルの距離を過ごして玄関の前に辿り着けば鍵を取り出す前にガチャリとそれが開いた。
「ああ、よかった。遅いから迎えに行こうと思ってたとこっスよ」
 ロイの顔を見た途端、ハボックがホッとしたように笑った。その笑顔につられるようにして笑えばハボックがロイを家の中へと通す。白々と照らし出される世界が扉の向こうへと消えて、ロイの体から意識せぬまま力が抜けた。

 その夜もここ数日と同じように夜中になっても雷が鳴り響いていた。時折思い出したようにザアッと雨が降るが、大抵は雷の音だけがしつこく響いている。
 ロイは雷の音を締め出そうとするようにブランケットの中に潜り込むと丸めた体をギュッと抱き締めた。だが、雷はまるで家の中で鳴っているかのようにすぐそこで響いて、締め出す事などとても不可能だった。
「くそ……ッ」
ロイは低く呻くと一向に訪れない眠りを引き寄せようとギュッと目を瞑る。だが眠ろうとすればする程意識は冴え渡って雷の音に耳をそばだてていた。
 鳴り響く雷鳴はあの砂漠の地で聞いた爆音に似てロイの心をざわつかせる。己の繰り出す焔が生み出す爆音が、休みなく繰り返される銃撃がすぐそこで聞こえるようで、ロイは己の体を抱き締めた。遠いようですぐそこに横たわる記憶を強引にこじ開けられてロイが震える吐息を吐き出した時。
 力強い腕がロイの体を後ろからギュッと抱き締めた。
「抱き締める相手が違うでしょ」
 耳元で囁く声にロイはゾクリと身を震わせる。ハボックはロイを抱き締めたまま囁いた。
「どうしてオレに縋ってくれないの?アンタが強いのは知ってるっスけど、こんな時くらいオレに縋りついてよ」
 その言葉に驚いたように振り向けば空色の瞳がロイをじっと見つめる。
「オレがここにいること、忘れないで、たいさ」
 そう告げるハボックに泣き笑いのような表情を浮かべてロイは腕を伸ばした。ハボックの体を抱きしめて夜目にも明るい金の髪に頬を埋めれば雷の音が遠ざかっていく。
 抱き締める温もりに守られるように瞳を閉じれば、いつしかあたりを包むのは柔らかい雨の音へと代わっていったのだった。


2008/09/01

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

今年の夏は夜、しょっちゅう雷が鳴ってました。神経が図太いので眠れないと言うことはありませんでしたが(苦笑)それでもやっぱり「コワ〜〜ッ」と。こんな夜は絶対外には出たくないですよね。