バニラ
雨が降る時は何となくわかる。空気が湿り気を帯びて段々重くなってくるからだ。重くなった空気が堪え切れずに雨粒
になって落ちてくる、そんな感じ。
昨夜もそんなだったから降るのかなって思っていたら案の定、今日は朝からしっかり降ってる。ねずみ色の空から
銀色の滴がさーさーと降り注いで、街をモノトーンに染め上げている。
こんな日は大佐の眉間の皺は3割増しだ。きっと不機嫌な顔してるんだろうなと思って司令部に来たら、やっぱり眉間に
皺よせて窓から空を睨んでいた。いくら大佐の眼光が鋭くたって、そんなことしても雨は止まないのに。
綺麗な顔を顰めてるなんて、もったいないと思うから思わず指先でそっと撫で上げて顰め面を解してあげたい衝動に
駆られるけど、そんなことしたらきっと燃やされるに違いない。それでも、やっぱりそんな顔してるのを見てるのは忍び
難くて、せめてもの慰めにとコーヒーでも入れてみる。砂糖とたっぷりのミルクと、あと少しでも気持ちが解れるようにと
甘い香りのバニラを一滴。
執務室に入るとコーヒーの香りに窓辺に立った大佐が振り向いた。
「どうぞ。」
机の上にコーヒーのカップを置くと引き寄せられるように椅子に座り込んだ。
「香りが…。」
カップを手に取りそう呟く大佐ににっこり微笑みかけて。
「バニラを入れたんスよ。いい香りでしょ。」
頷きながらカップに口をつけて、含んだ香りを楽しむようにゆっくりと味わう大佐の、眉間の皺が少し減ったことに安心
する。黒髪に手を伸ばして指を絡めれば閉じられる目蓋にそっとキスを送って。
目を開いた大佐が窓の外を見やって呟いた。
「まったくよく降る雨だな。」
「もうすぐ止みますよ。」
大佐の言葉にそう答えたオレを大佐が不思議そうに見上げた。
「だって乾いた風が吹いてきてる。」
そう言って窓から顔を出した。霧のような雨が髪に纏わりついて細かい水滴になる。
「バカ、濡れてるぞ。」
そう言ってオレの腕を引くと部屋の中へと引き戻す大佐に笑いかければ、一瞬目を瞠ってそれから腕を伸ばしてオレの
首に手をやると自分の方へと引き寄せた。
「バカなヤツ…」
呆れたような笑いと共に優しい口付けが降ってくる。バニラの香りと一緒に甘い甘いキス。世界一大好きな人をそっと
抱きしめて窓の外へ目をやれば。
うっすらと差してきた日差しの向こうに淡い虹が見えた。
「あ、虹…。」
オレの言葉に大佐も外を見る。
「虹の根元には宝物が埋まってるそうっスよ。」
大佐の髪に顎を埋めてそういえば。
「また、おばあさんの受け売りか?」
大佐がオレをからかう。
「今度一緒に探しに行きましょうね。」
囁くオレの胸元で優しく微笑む気配がした。
2006/6/15
拍手御礼に使っていたものです。雨が上がる時に乾いた風が吹くかどうかははっきり言って知りません(←おい)虹の根元に宝物が埋まっているっていう歌、ありま
せんでしたっけ??子供の歌であったような気がしたのですが。それにしても、「停電」「バニラ」そして今拍手御礼になってる「misty rain」といい、なぜか拍手は
雨ネタが多いですね。別に狙ってるわけじゃないんですが(苦笑)