天水琴


出張で通りがかった小さな町に思いがけず一泊することになり、何もない田舎町に手持ち無沙汰だったロイは、
突然出かけようと言ったハボックに連れられるままにここまでやってきた。なにがあるのか教えてくれないハボックに
ロイは若干ムッとしながらハボックと手を繋いで歩いていく。
「大佐、こっち、こっち。」
ハボックに手を引かれるままにロイは、その土地の神様を祭っているという社の敷地へと入っていった。
「なにがあるって言うんだ?」
「いいからいいから。」
石段を上がった先には狭い広場のようなものがあり、その片隅になにやら筒のようなものが立っている。
「なんだ、これは。」
古臭い竹筒にロイは眉を顰めた。ハボックはそんなロイを楽しそうに見ながら言った。
「その筒に耳を当ててみて下さいよ。」
「?」
言われてロイは怪訝な顔をしながらも、竹筒に耳を当てた。すると。
きん、と。
弦を弾くような音がロイの耳を打った。
「あ」
その澄んだ音色にロイの瞳が見開かれる。ロイはもっとよく聞こうとして筒に耳を押し付けた。
きん。
りいん。
ロイの耳に不規則に音が響く。澄んだ高い音色は不思議と心を落ち着かせて。
ロイは暫くじっと目を閉じてその音色に耳を傾けていたが、ゆっくりと身を起こすとハボックの顔を見た。
「天水琴っていうんですって。」
「天水琴?」
「そこの大きな瓶(かめ)に雨水を溜めて、溢れた水滴が地下に埋めた瓶に落ちると音が出るそうですよ。」
ハボックの説明で竹筒から少し離れたところにおいてある瓶にロイは気がついた。黒光りする古い瓶はかなりの
大きさがある。
「ここに雨水を溜めるのか。」
「すごいっスよね。自然に落ちた滴があんな音を立てるなんて。」
ハボックの言葉にロイはもう一度竹筒に耳を当てた。その音色に心の中が澄んでいくような気がする。
「ハボック。」
ロイは水色の瞳を見つめてハボックを呼ぶ。
「一緒に聞こう。」
歩み寄ってくる水色を引き寄せて。
そっと口付けると、二人は天の音色に耳を傾けた。


2006/12/1


拍手御礼ssで使っていたものです。天水琴とは水琴窟の別名ですが、こちらの方が字面が綺麗だったので。拍手御礼ssはずっと雨をテーマに
してきましたが、だんだんネタに困って、こんな話を書いてみました。一応雨を溜めて音を出すって事で雨がらみ…ちょっと苦しいかな(汗)