低気圧


 バラバラバラ。
 降り注ぐ雨が車の屋根を叩く。ワイパーが忙しくフロントガラスを行き来するが、流れる雨の量が多くてハボックが見つめる視界は水流でゆがんだままだった。
「すんません。着くの、少し遅れるかもしれません」
 ハボックは前方を凝視したまま後部座席のロイに言った。
「別に構わないさ」
 ロイはシートに深く座りなおすとそう答える。季節はずれに発達した低気圧が、台風並み、いやそれ以上の雨と風をもたらしていた。折悪しくどうしても出席しなくてはいけない会議があったロイは、ハボックの運転する車で出かけたはいいが、司令部に帰る頃には雨風は最高に激しくなっていた。水はけの悪い道路はかなりの深さまで水がたまっており、車のタイヤが道路を進むと巻き上げた水が車の窓ガラスを激しく叩いている。ロイは水の流れで歪む窓ガラスのむこうの景色を見つめたが、雨に真っ白くけむって1メートル先もみることは出来なかった。
「まいったな……」
 ハボックが呟く声を耳ざとくききつけてロイが問う。
「何がだ?」
 ハボックはちらりとルームミラー越しにロイを見ると答えた。
「この先の十字路、四方から道が下ってきた丁度底になるんですよ。このあたりでこの調子じゃあそこはきっと……」
 池になってますよ、と言うハボックにロイは聞いた。
「迂回路はないのか?」
 言われてハボックは眉を顰める。
「あるにはあるんスけど、崖っぷちなんスよね」
 言外にこの雨の中行きたくないと匂わせるハボックにロイは腕を組んだ。その時。
 がくんと揺れたかと思うと、急に車が止まってしまった。
「げっ、嘘だろっっ?!」
 ハボックが慌ててキーをまわすがエンジンはかからない。ハボックはちっと舌打ちするとちょっと待ってて下さい、と言って雨の中へ出て行ってしまった。見えない窓ガラス越しにロイはハボックの様子を窺ったが、微かに人影が見えだけで何をやっているのか判らない。いい加減心配になったロイが自分も外へ出ようかと思ったとき、ぶるんと車が震えてエンジンがかかった。
「迂回路の方に行きます」
 運転席のドアをあけて飛び込んできた途端、ハボックはそう言う。ずぶ濡れになったハボックは手を振って滴を飛ばすとハンドルを握り締めた。
「大丈夫か?」
「ちゃんと連れ帰ってあげますよ」
 だから心配しないで、と肩越しに笑うハボックの空色の瞳にこの雨の先に広がる青空を見つけて。
 二人を乗せた車は司令部へと続く道を白くけむる雨の中走り抜けて行った。


2007/1/9


以前、ヒューストンに住んでいた事があるのですが、水はけが悪いので雨が降ると冗談抜きで道が池のようになるんです。いきなり車が止まったりすると相当心臓に悪いですよ(苦笑)四方からの坂の下の交差点が池になっていたと言うのは本当の話で、車で走っていたダンナは、合図を送ってくれた人のおかげで突っ込まずに済んだと言う……。思いっきり実話ベースの話でした(苦笑)