停電


カッ―――ド・ドンッ!!
「落ちたな」
 ロイが滝のような雨が降り注ぐ様を窓から外を覗きながら呟いた瞬間。フッと電気が消えた。
「うっそー!!停電っスか?!」
 キッチンの方からハボックの叫び声がした。明かりが消えて暗くなった室内を手探りでゆっくりとロイはキッチンへと進んでいく。キッチンではハボックがフライパンを片手に暗がりの中、料理を続けていた。
「大丈夫か?」
「いやまあ、ガスは電気と関係ないっスけどね。でもこう手元が暗いとどんな仕上がりになってんのか見当つかないっス」
 そうぼやきながら手を休めることはない。
「もうすぐ出来ますけど、どうします?」
 聞いてくるハボックに
「ちょっと待て、燭台があったはずだ」
 答えてロイは、ごそごそと暗闇の中、目指すものを探して這い回った。


 食卓の上に古い燭台を置いてろうそくに火を灯す。ゆらゆらとゆれる明かりが並べられた食事をぼんやりと照らし出した。ハボックはロイのグラスにワインを注いでやりながらクスリと笑った。
「なんか、偶にはこんなのもいいっスね」
 ろうそくの明かりに照らされるロイの肌はうっすらと赤みを帯び、とても綺麗だ。黒い瞳に焔が映し出されて瞳の中で焔が燃えているような錯覚に陥る。
「せっかくの食事がよく見えん」
 ロイはワインを一口飲むとそう言った。
「食事は目で楽しむものでもある、と言ったのはお前だろう」
 不満そうにいうロイにハボックは小さく笑う。
「まぁ、何言ってもいまは仕方ないんスから。さ、温かいうちに食ってください」
 そう言ってフォークを取ると切り分けた肉を食べ始めた。ロイは暫くグラスを手にハボックを見つめていたが、自分も食事に手をつけ始める。
「あの暗がりの中よく、作れたな」
「殆んど出来上がってたところでしたから」
 事も無げにいうハボックをロイは不満げに見つめた。少しは慌てれば可愛げがあるものをと勝手なことを考えながらふと、ハボックの瞳をみて目を瞠る。
「目がオレンジになってる」
「へ?…ああ、焔が映ってるんでしょ?」
 いつもの綺麗な空色が消えてゆらゆらとゆれるオレンジ色に染まるハボックの瞳はなんだか妙な感じがした。思わず席を立ってハボックの傍らへ行く。
「大佐?」
 不思議そうに見上げるハボックの瞳はやはりオレンジ色だ。ロイは途端に不愉快になってワインをかけて燭台の火を消してしまった。
「わっ!」
 急に暗くなった視界に対応できず、ハボックが素っ頓狂な声を上げる。
「たいさ〜、何するんスか〜」
 慌てるハボックが手探りで燭台を探そうとするのを押し留めて、ロイはハボックの膝の上に乗り上げた。
「ちょっ…、たいさっ??」
 狭い椅子の上、後ずさることも出来ず、それでも少しでも背を逸らしてロイから体を離そうとするハボックの顔を抱え込んで、ロイはその瞳を覗き込む。ろうそくの明かりが消えた今、それは綺麗な空色に戻って闇の中に沈んでいた。ロイはうっそりと微笑んでその眦を舐める。
「…っ!たいさっ、食事中っスから…!」
 慌ててロイを引き剥がそうとするハボックの耳元に唇を寄せて
「こっちの方が食欲をそそる…」
 と囁いた。吐息と共に言葉を耳に吹き込まれてハボックの体が大きく揺れる。
「…アンタね…」
 文句を言おうとする口を唇で塞げば、諦めたようなため息と共に口付けが返された。


「は…っ、んんっ」
 結局食事もろくに手をつけないままベッドの上で絡み合って。
「ホント、性質(たち)わりぃんスから、アンタ……」
 荒い息の中ハボックが呟くのにロイは手を伸ばしてハボックの顔を引き寄せると唇を合わせた。もうすっかりとかされた体はハボックの熱を求めて蠢いている。そんなロイにわずかに笑って体を繋ごうとした瞬間。
――― パッと明かりが灯った。
「!!!」
 ぎょっとして互いに凍りつく。先に我に帰ったのはハボックだった。
「あ、そうか、停電する前、電気つけっぱなしだったんだ」
 そう言って天井を仰ぎ見る。そこでは煌々と明かりが点っていた。
「どけっ、ハボック!!」
 そう怒鳴る声に視線を戻せば、真っ赤な顔をして自分の腕から逃れようともがくロイがいた。
「何やってるんスか」
 そう言えば
「いいから、どけっ!!」
 と言ってロイはベッドから抜け出そうとした。突然点った明かりに我に返って羞恥心を煽られたらしい。そんなロイをみるうち、ハボックの中にムクムクと悪戯心が沸き起こってきた。今にもベッドから飛び降りんばかりのロイをぐいと引き寄せてその耳元に囁く。
「たまには趣向を変えて明るい所でってのもいいかと……」
 ロイの顔色がすっと青褪めたかと思った次の瞬間、首下まで真っ赤になって暴れだした。
「離せ!」
「冗談でしょ」
 そのままロイをベッドに押さえ込むとゆっくりと快感を煽っていく。
「よせっ!」
 泣きそうに顔を歪めるロイにたまらない愛しさを感じて、ハボックはそっと口付けた。
「愛してますから」
 そう言えばほんの少しロイの体から力が抜けた。
「だからアンタの全部、見せて?」
 そう囁くハボックにロイは目元を染めて腕で顔を覆った。
「お前、ずるい……っ」
 力の抜けた体を愛しげに抱きしめて、ハボックはロイの全てを堪能した。


2006/05/16


拍手御礼に使っていたものです。ロイが29才とは思えない乙女ですね。(苦笑)