storm


ざあざあと。建物の中に居てさえその凄まじい音に話す声も自然と大きくなる。ロイは足早にロッカールームに向かうと
今はそこにいるはずだと聞いた男の姿を探した。
「ハボック!」
「大佐。」
ハボックはちょうど新しいシャツに着替え終わった所で、濡れた軍靴を履こうかどうしようかと迷っている所だった。
「どうだ、様子は?」
ロイにそう聞かれて、ハボックはとりあえず靴を脇に置くと、座ったベンチからロイを見上げる。
「西地区の工場街の近くを流れる川の堤防がちょっとヤバイっスね。今、土嚢を積み上げてるとこっス。」
「避難命令は出ているんだろう?」
「ええ。もう殆んど避難し終わってるはずです。」
ハボックはため息を付くと煙草を取り出してロイに言った。
「ちょっと一服、いいっスか?」
「なんだ、いつもは聞きもしないくせに、殊勝だな。」
呆れたようにそう言われてハボックは苦笑した。この2日程、降り続く大雨による被害に、ハボック達の部隊は昼夜を
問わず駆けずり回っていた。今、ハボックはずぶ濡れになった軍服を着替えてつかの間の休息を取る為に、司令部に
戻ってきた所だった。どうせまた外に出て行くのだから着替えた所で意味がないと言ってしまえばそうなのだが、
やはりずっと冷たい雨に打たれていると、疲労も溜まってくる。ムダだとは判っていても熱いシャワーを浴びて着替え
たいと思うのが人情だった。
「大佐は大丈夫っスか?」
ハボックは煙草をふかしながら自分を見つめる黒い瞳を見返す。ロイはその言葉に驚いて目を瞠った。
「大丈夫も何も、私は外に出ていないんだからな。それを言うならお前の方こそ大丈夫か?」
そう聞かれてハボックはニッと笑った。
「オレは大丈夫っスよ。頑丈に出来てますもん。」
ハボックはそう言うと更に言葉を続けた。
「アンタこそ、雨だと体調悪くなったりするでしょ。大丈夫っスか?」
目を細めてそんなことをいうハボックにロイは言葉に詰まる。大雨に打たれて作業をすることがどれだけしんどいか
判らないわけはない。それなのに建物の中で指示を出すしかない自分のことを気にかけるハボックに、ロイは胸が
痛くなった。でも、そんなことはおくびにも出さずにロイは軽く笑う。
「私なら大丈夫だ。」
「なら、良かった。」
ハボックはそう答えると煙草を揉み消した。そうして濡れた軍靴に足を突っ込むと立ち上がって目の前のロイを
引き寄せる。何事かと見上げるロイの唇にそっと触れるとハボックは照れたように笑った。
「ちょっと元気の補充。」
そう言うと、ひらひらと手を振り、また外へと走り出して行く。ロイはそんなハボックを見送って唇を噛み締めた。
こんな時、自分の無力を思う。焔の錬金術師として気体を操る術を知ってはいても、そんなものこの大自然の前では
微々たる物でしかない。今はただこの怒れる自然がその力をおさめてくれる事を祈るしかなく。
ロイは叩きつける雨の中で金色の髪を濡らして走り回る男のことを思い続けた。


2006/11/2


拍手御礼に使っていたものです。しつこく雨ネタ。自然の猛威の前では無力な二人。でも、そんな時でもお互いを想ってるってことで。