きつねの嫁入り
「だああっっ!あめっ!降ってるっ!!」
ばたばたと裏庭に出て行く足音がして、ロイは寝そべっていたソファから体を起こした。その拍子に胸の上に載せて
いた本を落としそうになって慌てて押さえる。
「雨?」
そう言って目を向けた窓は明るく輝いている。とても雨が降っているとは思えなくてロイは立ち上がるとリビングを
出て裏庭への扉を開けた。
「あ…。」
綺麗に晴れ渡った空からさあさあと銀色の滴が降り注いでいる。陽の光を浴びてきらきらと輝くそれに見惚れる
ロイの脇を洗濯物を抱えたハボックがすり抜けて、家の中に入っていった。少しして出てきたハボックがロイに
並んで晴れた空から雨が降るという不思議な現象を見上げる。
「きつねの嫁入りっスね。」
「え?」
「きつねの嫁入り。オレの田舎じゃ天気雨のことをそう呼んでましたよ。」
その理由を聞きたそうな表情を浮かべて自分を見るロイに微かに微笑んで、ハボックは言葉を続けた。
「きつねって人間に姿を見られるのを嫌うんですって。だから、晴れた日に嫁入りするのを雨を降らせて隠して
しまうって話ですよ。」
だから天気雨の日は外に出ちゃいけないってばあちゃんが言ってました、と言うハボックにロイは言った。
「人間に姿を見られたくなくて晴れた日に雨を降らせるなんて、逆効果だな。」
そう言うとロイは雨の中に出て行くと空に手を差し伸べた。そうして手を下ろしながらくるりと振り向きハボックに
笑いかける。
「だって、こんなに綺麗だ。」
きらきらと陽の光をまとって降り続ける銀色の滴を纏ったロイは、淡い光を放っているようで。
「アンタの方がよっぽど綺麗っスよ。」
そう言ってハボックはロイに近づくとその腕を取る。黒髪を飾る銀色のビーズを払って唇を寄せた。そうするうちに
雨はだんだん弱くなり辺りに降るのは陽の光だけになって。
「ハボック、あれ!」
ロイが指差す方を見上げればそこには綺麗な七色の橋。澄んだ空に浮ぶ橋を渡って進んでいくきつねの行列
が見えたように思えて。
2人はその橋が青空に溶けて消えるまで見つめ続けていたのだった。
2007/3/1
拍手御礼に使っていたものです。しつこいですが雨ネタっ!
子供の頃、お天気雨って凄く不思議でした。ホントにきつねの行列がいるんじゃないかって気になったものです。