風嵐
 
 
「あ」
季節はずれの嵐に備えて庭の植木鉢を避難させていたハボックは木の根元に落ちている鳥の巣を見つける。急いで
駆け寄れば、巣の中で数羽の雛がピィピィと泣いていた。
「風で落ちたんだ…」
ハボックはそう呟くと高い木の枝を見上げる。空には親鳥と思しき姿が困りきったように飛んでいた。
「ちょっと待ってろ。すぐにママのところに帰してやるからな」
ハボックはそう言うと巣を木の根元において倉庫へと駆けていく。暫くすると紐や針金を手に戻ってきた。ハボックは道具
をズボンのポケットに突っ込むと巣を拾い上げ張り出した枝に手をかける。枝の分かれ目のところに巣を置くと懸垂の
要領で体を引き上げ、そうやって少しずつ上へと登っていった。
「よし、この辺でいいか」
ハボックはそう呟くと巣を張り出した枝の根元に針金と紐を使って器用に固定していく。そうこうする内、低く垂れ込めた
雲から最初の一滴が落ちてきた。
「やべぇ、降ってきた」
そう呟いてハボックは急いで作業を終えると雛達に笑いかける。
「これで大丈夫だぞ、もう落ちんなよ」
そう言うとハボックは今度は下へと下りて行った。
降りだした雨は既にバケツをひっくり返したようになっており、ハボックはずぶ濡れになりながら枝を伝っていく。その時、
庭に面した扉が開いて、ロイが家から顔を出した。
「ハボック!何やってるんだっ、早く中に入れっ!」
「あ、たいさぁ。今もどりますか、らっ…どわっ!」
「ハボ…ッッ!!」
濡れた枝で足を滑らせたハボックはザザザッッと枝葉を掻き分けるようにして下へと落ちる。
「だっ…このっ」
凍り付いて見つめるロイの目の前で、だがハボックは枝のひとつにしがみ付いて転落を免れた。
「大丈夫かっ?ハボック!」
慌てて駆け寄ってきたロイが見上げる中、ハボックは枝を滑り降りてくると地面に下り立つ。とりあえず目立った怪我が
ない事に安堵した途端、ロイは怒鳴っていた。
「何やってるんだっ、お前はっっ!!」
「いや、鳥の巣が落ちてたから…」
そう言い訳するハボックの声がかき消されるように雨が降り注いでくる。二人は顔を見合わせると何も言わずに家の中
へと駆け込んだ。扉を閉めれば多少雨音は遠くなり、二人はポタポタと滴を垂らしながら互いを見つめる。
「凄いな、全く。こういうのを見ると人間とは自然の前ではなんと小さな存在かと思うよ」
「そっスねぇ…被害が出なきゃいいんスけど」
そう言って見上げた窓の外では風と雨が吹き荒れて。
二人は家という巣の中で早く嵐が過ぎ去ることを願うしかなかった。


2008/6/3
 
今年はまだ春だというのに台風が関東に接近するコースを取ることが多いようです。5月だけでも3つ。6月の頭の5号で4つめ。
一体どうなっちゃってるんでしょうね。