羯磨2


「私は死んだ者の事を忘れてしまうらしいな」
 野営地のテントの中でロイがそうポツリと言う。その言葉にハッとしたように見つめてくるハボックを見て、ロイは苦笑して隠しから一枚の写真を取り出した。
「この間戻ったときに見つけた。他の写真はお前が処分したんだな?」
「大佐」
 辛そうに目を逸らすハボックにロイは言う。
「責めてる訳じゃないよ、ハボック。だが、私にはこの男の記憶がない。こんな風に笑いあって写真に収まっているのに」
 ロイはそう言いながら写真に写る常盤色の瞳をした男の顔を撫でた。
「不思議に思って調べた。どうやら錬金術師は死んだ者の記憶をなくしてしまうようだ。そうなんだろう?ハボック」
 聞かれてハボックはギュッと唇を噛む。それでも誤魔化すことは出来ないと頷いた。
「そうっス。アンタはそれがどんなに親しい相手でも死んでしまえば忘れちまう」
「この男は?」
 まるっきり知らない相手のことを聞くような調子で尋ねるロイの言葉に、ハボックは一瞬躊躇ったものの答えた。
「マース・ヒューズ中佐。士官学校からのつきあいで……アンタの親友でした」
「───そうか」
 そう聞いてもロイは感情を全く表さずに頷いただけで写真を元の通りにしまう。そのまま二人して黙り込めばランプの芯がジジジと焼ける小さな音だけがその場を支配した。
「ハボック」
 暫くしてロイがハボックを呼ぶ。その声にハボックが俯けていた顔を上げれば、ロイはハボックを見ずにもう一度言った。
「ハボック」
「はい」
「私はまだお前の名前を覚えているな」
 ロイはそう言ってハボックを見る。食い入るように見つめてくる空色を見て、ロイは笑みを浮かべた。
「私はお前の名前を忘れたくない。ずっと……私の命が散るその瞬間までお前と一緒にいたい」
「大佐」
「だから約束しろ。絶対に死なないと、ずっと私のそばにいると」
 万感の想いを込めて見つめてくるロイの、黒く透明な瞳をハボックはじっと見返す。それからフッと笑みを浮かべて言った。
「約束はしません」
「ハボック」
 期待していた言葉とは違う答えにロイが顔を歪める。だが、ハボックはそんなロイを見つめて言った。
「約束はしないっス。だって、なんか約束した途端終わりが来ちまうような気がする」
 そう言うハボックにロイは目を見開く。大好きな黒曜石を見つめてハボックは言った。
「だからオレの名前、呼んで?何度も、何度でも。アンタがオレの名前忘れないように、最後がこないように」
「ハボック」
「そのかわりオレは死にものぐるいでアンタを守る。そしてこの戦いが終わったら……ほら、この間見た虹の麓、あそこに二人きりで行きましょう。アンタ、行ってみたいって言ってたっしょ?」
 そう言って優しく見つめてくる空色をじっと見つめていたロイはそっと目を閉じる。それからゆっくり目を開くと笑みを浮かべた。
「わかった。それなら私はお前の名を呼び続けよう、たった一つの、お前の名前を」
 ロイがそう言えば空色の瞳が笑う。その時、敵襲を伝えるサイレンが響きわたった。
「行くぞ、ハボック」
「イエッサー!」
 立ち上がり発火布の手袋をはめるロイの後にハボックが続く。テントから出ようとして、ロイはハボックを振り向いた。その黒い瞳を見てハボックは頷く。
「ずっと隣に」
 その言葉に鮮やかに笑って、ロイは入口の垂れ幕を勢いよく跳ね上げて戦場へと踏み出した。


2011/12/07


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「羯磨」の続き。今度は同じゲームの主題歌からネタ持ってきました(笑)拍手で続き物ってどうよと思わないでもありませんが(しかもこんなネタだし)どうにも続きが書きたくなってしまったので。きっとロイはハボックの名前だけは忘れたくないだろうなぁと。