星守る犬


 いつの頃からだったろう、あの人の瞳が満天の星空よりも綺麗だと気づいたのは。

 ロイ・マスタング。
 あの若さでアメストリス国軍大佐の肩書きをもち、かつ焔のふたつ名を持つ国家錬金術師。癖のない黒髪はさらさらと艶やかで、黒曜石の瞳には何事にも屈しない強い意志を秘めている。女性に限らず男をも惹きつけてやまないその魅力に、オレも気がつけばぐいぐいと引き込まれて目が離せなくなっていた。

 でも。

 オレがどれほど思ったところであの黒曜石の瞳がオレを見ることはない。彼はいつでも遠い高みを見つめているのだから。いつか必ず彼が到達すべき高みだけを。

「行くぞ、ハボック」
「Yes, sir!」

 オレに出来るのは彼がその高みに辿り付くための力になることだけ。例えそれがどんなに微力でとるに足らないものだとしても、彼の為に力を尽くすことだけ。彼の犬として彼の手足となり彼が望む働きをしてみせるだけ。どんなに彼に恋い焦がれていたとしても、それを口にすることも増してやその想いを叶えることも出来はしない。
 それでも。そうして傍で彼を見つめて支えていればいつか想いが叶うかもなど、くだらない下心を抱えて。

 だからオレは星守る犬。
 彼の瞳の中の満天の星いつかこの手に入れたいと叶う筈もない願いを抱き締めて、彼のことをただ見つめ続ける。

 虚しい想いを抱いて彼を見つめ続ける、オレは星守る犬。

2010/08/19


「星守る犬」の意味は「犬が星を物欲しげに見続けている姿から、手に入らないものを求める人のこと」なのだとか。ちょうど同名の漫画を読みまして、漫画の内容は勿論よかったんですが、タイトルを見て思わず「ハボじゃん!」ってこんな話となりました(苦笑)