春雨じゃ、濡れて行こう
はらはらはら。
明るい空から剥がれ落ちてくるそれは。
液体であるはずなのにそれに触れたものを濡らすことをせず。
ただその表面を煌めく雫で飾っていく。
「ねぇ、たいさ。どこまで歩くんです?いい加減に帰らないと中尉がお冠っスよ。」
「いいじゃないか、せっかくの雨なんだから。」
いつもなら雨は嫌いだの何だのと文句ばかり言うくせに、この季節の雨だけはロイはいたく気に入っていた。
「確かに気持ちのいい雨っスけど。」
でも、煙草が吸えないのが難点なんスよね、とハボックはぼやきながら空に向けて大きく腕を広げる。金色の髪
に雫を纏わせてきらきらと輝くハボックは、まるでそこだけが切り取ったように明るく見えた。ぶるんと頭を
振って金色の雫を弾き飛ばすとハボックはロイを見て微笑んだ。
「すごい、たいさの髪の毛、ビロードみたいっスよ。」
銀色の雫を纏ったロイの漆黒の髪はまるで上質のビロードのようだ。ハボックがそっと触れるとロイの髪をつるり
と雫が滑って落ちた。
「ガラスみたいだから摘めるかと思ったのに。」
やっぱり雨なんスね、と言うハボックにロイが笑った。
「お前の髪の毛は金ラメだな。」
「ラメ…なんか安っぽくないっスか?」
がっくりと肩を落としたハボックはロイの顔をみて僅かに目を開いた。次の瞬間空色の瞳を細めて言う。
「なんかおいしそう…。」
そう言って雨の雫を載せたロイの唇に触れるとゆっくりと唇を重ねていった。
2007/4/1
拍手御礼ssでした。雨ネタシリーズ、いくつ目ですかね?「春雨じゃ、濡れて行こう」は決して風流だからではなく、「春の雨は霧雨で傘を差していても
濡れてしまってムダだから傘を差さない」という説があるそうですが、やっぱりここは風流だからってことにしておきたいかなぁと(笑)