春の雨
 
 
「あ、雨…。」
ロイは図書館の重い扉を開けてそう声を上げた。朝から篭りきりで調べ物をしていたせいで、外の天気の変化に全く
気付いていなかったロイは空を見上げる。薄っすらと明るい白い空からは絹糸のような雨が降り注いでいた。
さらさらさら。
まるで自分は雨ではないかというように、音もなくそれは空から降ってくる。ロイは暫くの間空を見上げていたが、視線
を戻すとゆっくりと雨の中を歩き出した。冬の冷たい雨とは違い柔らかく包み込むようなそれは、明らかな季節の移り
変わりを告げながらロイの上に落ちてくる。
さらさらさら。
髪に、肩に、降り注いでくるそれを楽しみながら歩いていけば呆れたようなため息が聞こえた。
「何やってるんスか、アンタ。」
そう言う声の方を見れば傘を差したハボックが呆れた顔をして立っている。
「雨が降ってりゃオレが迎えに来るくらい判りきってるんだから、どうしておとなしく待ってられないんスか。」
口調は責めるそれだがその声音は優しい響きを伴っていてロイはにっこりと笑った。
「春の雨だ。多少濡れても寒くないさ。」
「そんな事言ってると風邪引くっスよ。」
ハボックはそう言うと差していた傘をロイの上にさし出す。ロイの黒髪を飾る水滴を手のひらではたくと言った。
「ああほら、こんなに濡れちまって。」
ホントにしょうがないんだから。
そうぼやくハボックが家に帰れば濡れた自分にせっせと世話を焼く姿が浮かんでロイの笑みが深くなる。
「何笑ってるんスか?」
「さあな。」
ロイはそう言ってハボックの手から傘を取ると、首を傾げるハボックを置いて雨の中を歩き出したのだった。


2008/4/4
 
冬の冷たい雨に比べて春の雨ってなんだかとても柔らかくて、命を育むような気がします。
暖かな雨が降ると季節が変わったんだなぁと思ったり。