独占欲


「ハボ…っ、もう、や、め…っ、あ、あああ―――っっ」
 荒い息の中、意識を飛ばした彼の体を抱きしめる。
 こんなのダメだと思っているのに、どうしても暗い衝動を抑えられない。優しくしたいと思うのにそんな思いを嘲笑う様に心の奥から顔をもたげた暗いものが、大切なこの人を手ひどく扱うのを止められない。セントラルからこの人の親友だという中佐が来た夜は、必ずこうだ。こんなことしてもどうなるものでもないと自分でもよくわかっているのに。
 いつもと違う顔で笑うこの人を見るたび。
 オレには決して見せない表情で、甘える仕草で、中佐と話すこの人を見るたび。
 二人がかつてそういう関係があったとは思わない。でも、お互いがお互いにとって特別な存在。
 誰もその位置に立つことは適わない。そのことを思い知らされるようで。
 オレの知らないこの人の傷を知っている中佐には決して敵わないことを見せ付けられるようで。
 暗い醜い獣がオレの体を喰い破ってのそりと現れ、大切なこの人を傷つけていくのを、どうしても止められなくて。
 自分の中の嵐が過ぎ去ればいつだって後悔するのに。
 こんなことを続けていたら、こうして彼に触れることすらかなわなくなってしまうかもしれないのに。
 彼の中のオレという存在がどんどん小さくなって、立っている場所すら失ってしまうという恐怖に歯止めがかからない。
 頼むから、そんな顔で笑わないで。そんな風に中佐に触れないで。
 そう伝えられたらどんなに楽だろう。
 出口のない想いに自分自身も彼もめちゃめちゃに引き裂いて。
 いっそ、このまま二人、息絶えてしまえばいい。
 そう思いながら気を失った体をかき抱いた。


 私がヒューズと笑いあうのを見るたび、さりげなくヒューズに触れるのを見るたび、コイツの顔が嫉妬に歪むのを知っている。
 いつもは空を思わせる綺麗な青をたたえる瞳が、暗く欲望に滾って、自分を見つめるのをゾクゾクしながら感じている。
 コイツがヒューズのことを私の特別だと信じていることを知ってる。
 確かにヒューズは親友だし、共にイシュヴァールで戦った戦友だ。他の人間に比べたら特別ということになるのだろう。
 でも、私にとって本当の意味での特別はコイツだけだ。
 誰にも渡したくない、その瞳に私以外の誰をも映して欲しくない。本当は誰の目にも触れない所に閉じ込めて私のことだけを見つめてほしい。私だけでコイツを満たしておきたい。
 でも、コイツときたらそんな私の想いなどお構い無しにあちらこちらで笑顔を振りまきやがって。
 コイツの青い瞳に誰かが映されるたび、コイツが話しかけるたびどれだけ私の心がかき乱されているかなんてこれっぽっちも知ろうとしない。
 だから。
 わざとヒューズに触れる。わざとヒューズに笑いかける。
 その度、コイツが苦しげに目を逸らすのを、唇をかみ締めるのを、暗い喜びと共に感じている。
 もっと、もっと、コイツの中を私だけで満たしたい。他の誰のことも、どんなことも考えられないほどに。
 ヒューズが来た夜、コイツがその瞳に暗い欲望を滾らせて私を抱きしめてくるのを、例えようもない喜びを持って受け止めていることを、嫉妬に狂ったコイツは気づきもしない。
 気づかなくていい。嫉妬のままに引き裂かれるのが心地よい。コイツの全部を私で満たして、絶対に離してやらない。
「たいさ…っ、たいさっ」
 血を吐くような叫びを上げて私の中に想いを放ったハボックの体を抱きしめて、意識を手放した。


2006/5/7


拍手御礼としてclapページに載せていたものです。こんなのお礼にどうよ?…ってカンジですが。
ロイはね、絶対独占欲の塊だと思っています。ハボ→←ロイで勿論両想いなんですけど、キモチの度合いとしてはハボ<ロイみたいな?