ボクが雨の日を好きな理由
 
 
ザアザアザア。
いい加減空のバケツが空になってしまうのではといらぬ心配をしてしまうほど、雨が何日も何日も降り続いている。ぞろぞろと部屋中に干された洗濯物を前に、「いい加減に晴れてくれないかしら」と、母はここのところずっと不機嫌だ。
だがハボックは雨の中、毎日が楽しくて仕方がない。何故なら彼にはおニューのアイテムがあるからだ。真新しい空色の傘に空色のレインコート。足には黄色いヒヨコ色の長靴。それらはハボックの髪と瞳の色によく似合っていて、ハボックはそれをつければどんなにどんよりと重く垂れ込めた空の下でも心がウキウキとしてくるのだ。

今日もハボックはレインコートを身につけ、長靴を履いて雨の中歩いていく。灰色の空の下、見上げればハボックの上だけは綺麗な空色が広がっていた。ウキウキしながらハボックが向こう側に渡ろうと、道路の脇で待っていた時。
バシャアアアン!!
ハボックの目の前を通り過ぎた車が水溜まりの水を跳ね上げた。頭から泥水を被ったハボックは暫らくの間呆然と立ち尽くしていたが、ポタリと首筋にたれた滴にビクリと体を震わせる。恐る恐る自分の姿を見下ろせば、空色の傘もレインコートも鮮やかな黄色いの長靴も何もかも泥まみれだった。
「ふぇ…っ」
それを見たハボックの瞳に涙が膨れ上がり、泥のはねた頬を零れ落ちる。傘の柄を握り締めてぽろぽろと涙を零してい
たハボックは、不意に顔に射した影に驚いて視線を上げた。
「ドロを跳ね上げられたのか、かわいそうに」
黒髪の青年はハボックの前に片膝をつくと泥のついた頬を手のひらで拭く。にっこりと微笑むと言った。
「そこの喫茶店は私の知り合いがやってるんだ。そこでタオルを借りよう」
そう言って青年はハボックの手を引くとすぐ傍の喫茶店に入っていく。
「ヒューズ、タオルを貸してくれ」
「んあ、ロイ?何だよ、来たと思ったら突然」
コーヒーの支度をしていたヒューズは眉をしかめてそう言ったがロイが連れている子供を見て目を瞠る。ニカッと笑って
言った。
「おお、いい男が台無しだ」
そう言ってタオルを差し出せば店にいた他の客達も騒ぎだす。
「うわ、ひどいですね、かわいそうに」
「早くしないと風邪を引いてしまいます」
口々に言って差し伸べてくる手にハボックは顔を赤らめる。ロイと呼ばれた青年がタオルでハボックの顔を丁寧に拭ってくれた。脱いだレインコートや傘も誰かが綺麗に拭いてくれて瞬く間に輝きを取り戻す。椅子に腰掛けたハボックの目の前に温かいホットミルクが入ったカップが差し出された。
「どうぞ。落ち着くわ」
そう言って優しく微笑む鳶色の瞳にハボックは礼を言うとカップを受け取る。優しく見守る幾つもの瞳に、ハボックは雨の日がますます好きになったのだった。

そうして。

「やっぱりここにいた、大佐っ!」
カランとドアベルを鳴らし、雨の滴を撒き散らして店の中に飛び込んできたハボックはカウンターに座るロイを見てそう言う。
口元につけようとしたコーヒーのカップをソーサーに戻すとロイはハボックを見上げた。
「相変わらずドタバタと。大体お前、今日は士官学校の卒業試験じゃないのか?」
眉を顰めて言うロイにハボックは満面の笑みを浮かべる。
「それならバッチリっスよ。だって雨の日はオレのラッキーデーだし。それより大佐、卒業したら絶対オレをアンタの部下にして下さいねっ!そういう約束だったんだから!」
あの雨の日、泥だらけになったハボックを偶然助けてくれたロイ達司令部の面々にハボックはすっかりと懐いてしまい、喫茶店に入り浸るようになった。そうして年を重ねて大きくなったハボックは絶対にロイの部下になるのだと士官学校に入学してついに今年卒業を迎える。
「私の部下になったら休む暇なんてないぞ」
「…大佐、コーヒー飲みながら言っても信憑性ないっスよ」
呆れたように言ってハボックは続けた。
「でも、アンタの為に頑張るの、夢だったから」
そう言って笑う笑顔の眩しさにロイは目を細める。小さかった子供は大きくなって、そうしてこれからは傍らで力を貸してくれるのだろう。雨の中でハボックと出会わなければ今こうしている事もなかったのだと思えば、雨の日は自分にとってもラッキーデーなのかもしれないとロイは思う。
「昔は雨の日が嫌いだったんだが」
「そうなんスか?じゃあ今は好きなの?」
「…そうだな」
答えて頷くロイに。
「オレも雨の日、大好きっスよ」
そう言って笑うハボックの笑顔はまるで太陽のようだった。



2008/6/29
 
 
これを書いた時は物凄い「子ハボマイブーム」でして(今もだけど(笑)子ハボの時にハボがロイに出会っていたら楽しかろうということで書いたのがこの話でした。小さい頃からハボがロイを大好きだといい。でもってロイもハボがとっても大事だったら素敵だなぁと。