雨にうたえば その後
「踊りましょうか」と言ったオレの言葉に照れて、刷毛で刷いた様に桜色になった頬を見ているうちに、オレの心を
優しいメロディが満たしていく。オレは『本日休業』と札の下がっている店の軒下に荷物を置くと雨がかからない
ようにさしていた傘をさしかけた。何をしているんだというようにオレを見つめている大佐の手から傘を取り上げると、
オレの傘と向き合うようにして置く。
「ハボック?」
キョトンとしてオレを見るまん丸になった黒曜石の瞳が子供のようだ。
「たいさ。」
ニコッと笑いかけるとオレは大佐の脇と膝裏に手を差し入れて大佐を抱き上げる。
「うわっ?!」
驚いてオレの首にしがみ付いてくる大佐に思わず唇から笑いが零れた。
I'm singin' in the rain
Just singin' in the rain…
頭の中を流れるメロディに合わせてクルクルと回る。
「ハボっ」
「たいさ、大好き。」
回りながらそう言えば腕の中の人の頬が鮮やかに染まった。
「バカハボ…っ」
そう言いながらもオレの胸に頬を寄せる大佐が愛しくて仕方ない。
Dancin' in the rain
Ya dee da da da da
I'm happy again
I'm singin' and dancin' in the rain
雨が降ってくる空は雲に覆われているけど、でもオレの心の中はお日さまが照っているみたいに明るくて暖かい。
それも全てこの腕に抱いた人のおかげなんだ。
「たいさ、スキっスよ。」
大きくくるりと回ってそう言えば、拗ねたように睨み付けてきた大佐がチュッとオレの唇にキスをする。不意打ちの
ようなそれに思わず脚がもつれてオレはステンッと尻餅を付いた。
「わっ、大丈夫か?ハボ?!」
オレに抱き締められたまま、心配してオレの顔を覗き込む大佐をギュッと抱き締めれば大佐もホッと息を吐いて
抱き返してくれる。ほぼ同時にクシュンとクシャミをして顔を見合わせるとくすくすと笑った。
「びしょ濡れだ。」
「家帰ったら飯より先に風呂っスね。」
そう言い合って立ち上がり荷物を取る。傘を取り上げてお互いに肩を竦めた。
「今更っスね。」
「今更だな。」
そう言うと傘をたたみ、2人で手を繋いで家へと戻った。
2007/12/4