あいあい傘


ロイは図書館から少し歩いた所にある民家の軒下で、空を見上げてため息をついた。どんよりと曇った空からは
絶え間なく雨が降り続いている。
『今日は天気崩れるって言ってましたから、傘持って出た方がいいっスよ。』
出掛けにハボックがそんなことを言っていたような気がしたが、せっかくの休み、一刻も早く図書館のあの独特な
空間に浸りたくてそのまま何も持たずに出てきてしまった。それでも家に帰るまでは持つかと思ったのに、図書館
を出た途端に降り出した雨はちょっと濡れて歩くには嬉しくないほどの降りになっている。
「……」
ロイはブルリと体を震わせた。雨が降って気温が下がったのか、何だかうそ寒い。ロイは自分の体を抱きしめると
空を見上げてもう一度ため息をついた。どう見てもこの雨はやみそうにない。やまないと判っているものを
いつまでもここで待っていてもしょうがないことは確かだ。どうせ家に帰るのだから帰ったらそのまま風呂に直行
すればいい。そう思ったロイがえいと軒下から飛び出そうとした時。
灰色に沈んだ通りを走ってくる金色の光が見えた。バシャバシャと足元の水溜りを跳ね上げながら走ってきた
ハボックは、片手に傘を差し片手にもう1本傘を持って、軽く息を弾ませながらロイを見つめる。
「よかった、雨宿りしててくれて。アンタのことだからびしょ濡れになって帰ってくるんじゃないかと心配したっスよ。」
傘持っていけって言ったのに、と文句を言いながらもロイに手にした傘を差し出すハボックを、ロイはじっと
見上げた。
「なんスか?」
傘を受け取らずにじっと見つめてくる黒い瞳にハボックは居心地悪そうに首を傾げる。ロイは視線を落とすと
傘を差すハボックの腕に自分の腕を絡ませた。
「えっ、ちょ…、たいさっ?」
目を白黒させるハボックにロイがくすりと笑う。
「傘は2本もいらんだろう?」
そう言って絡ませた腕にぎゅっと縋るように身を寄せた。促すようにして歩き出せば、ハボックが小さく笑う気配
がする。さあさあと降りしきる雨の中、ひとつの傘に身を寄せ合って歩くうちに、さっき感じたうそ寒さがすっかり
消えている事に気がついて、ロイは幸せそうに微笑んだのだった。


2007/5/1


雨ネタをずっと書いていたわりにはあいあい傘って言うのを書いていなかったなぁと気がついて書いてみました。あんまり背の高い人が傘を持つと、
一緒に入っている人は濡れるような気もするんですが…。まあ、この二人の身長差ならちょうどいいのかな。