譲れない瞳
「おい、あれ、マスタング大佐だぜ。」
「ああ、あの焔の錬金術師!イシュヴァールの英雄!」
「若いとは聞いてたけど、ホントに若いんだなあ…」
「ああ、俺もマスタング大佐の下で働きたいよ。」
ロイの後をついて歩くハボックの耳にそんな囁きが聞こえてきた。時は春。ちょうど士官学校を出たばかりの下士官達
が、ここ東方司令部へも配属されてきたところだ。半年たってそのうちの一体どの程度が使い物になると判断される
のか、できれば多いにこしたことはないのだが。まだ、今の所は嘴の黄色い雛どもがピーピーと騒ぎ立てているに
過ぎない。ロイがちらりと騒ぐ一団に目をやると、期待に満ちた空気がざわりと大きくなり、後ろを歩くハボックの神経
を逆撫でした。バタンと乱暴に司令室の扉を閉じてその空気を断ち切るハボックに、机についたブレダがおや、という
視線を寄越した。
「どうした、機嫌悪いじゃん。」
横を通り過ぎて執務室へ入っていくロイを目で追いながらブレダはハボックに聞いた。
「別に…」
ハボックは答えると席について煙草を取り出す。ライターを取り出して何度か擦るがつかないそれに舌打ちすると
無言でブレダに手を差し出した。ブレダはポケットからライターを取り出すとハボックに投げて寄越す。
「別にって顔じゃないだろ。また大佐が何かやらかしたのか?」
「大佐は何もしてねぇよ。」
ハボックは煙草に火をつけるとライターをブレダに投げ返した。そうして苛ただしげに煙を吐き出すハボックにブレダは
苦笑した。
「ま、お前の機嫌が悪いのは今日だけじゃないけどな。ここんとこずっとじゃないか。あんま苛々すっとそのうちポカ
するぞ。」
そう言うブレダをちらりと見て、相手が本気で心配しているのを見て取るとハボックは肩を竦めて煙草を揉み消した。
「判ってるよ。」
(判ってるけど…)
ハボックは心の中でそう繰り返して、執務室の扉を見つめた。
「アンタ、最近モテモテっスね。」
リビングのソファーに座るロイにコーヒーを差し出しながらハボックが言った。読んでいた本を閉じたロイは、コーヒーを
受け取りながら問いかける視線を向ける。
「判ってないわけじゃないでしょ?士官学校出たての雛たちにピーピー懐かれてんじゃないっスか。」
「なんだ、そんなことか。」
ロイはコーヒーを口にしながらそう答える。
「そんなことって…」
ムッとして言うハボックに苦笑するとロイは言った。
「年若い焔の錬金術師に夢見てるだけさ。どうせすぐ現実に気づく。」
「連中が現実に気づくまでのんびり待ってるの、嫌なんスけど。」
そう言いながらハボックはロイの側まで来るとロイの手からカップを取り上げた。
「ハボック…」
「アンタがオレのだって、連中に言っちゃダメ?」
「バカなことを。」
「言うのがダメなら見せびらかすんでもいいや。」
ハボックがそう言いながらロイの首筋を強く吸い上げようとするのを、ロイは咄嗟にハボックを突き飛ばした。
「ハボック、いい加減にしろ。」
くだらないことをぐちゃぐちゃと、と殊更に眉を顰めて言うロイにハボックは靴音も荒く部屋を出て行こうとする。
「オレにとっちゃ、ちっともくだらなくなんてないっスよ!」
扉のところで振り向きざまにそう言うと、ハボックは部屋を出て行ってしまった。
「ハボック!私は…!」
言いかけたロイの言葉は乱暴に閉められた扉にあたって空しく消えていった。
「午後は2時から新しく配属された下士官達への訓示をお願いします。」
今日の予定を告げるホークアイの言葉にロイは軽く頷いた。
昨夜、ハボックはあのまま帰ってこず、ロイはもやもやと胸に燻るものを抱えて眠れぬ夜を過ごしたのだった。今朝、
ハボックはテロの予告があったというビルの様子を見に行っているはずだ。出来ることなら少しでも話す時間が
取れたらと、ロイは窓の外に目をやった。
食欲のわかぬまま、コーヒーだけで昼食を済ますと、ロイは一息入れようと普段誰も寄り付かない狭苦しい会議室
の扉を開けた。体を中へ滑り込ませて閉めようとした扉を後ろからぐいと押さえられて、ロイはぎょっとして振り向いた。
すると扉を押さえたまま自分に圧し掛かるようにして立っていたのはハボックだった。ぐいとロイを中へ押し込むと
ハボックは後ろ手で扉を閉めて鍵をかける。表情のないその顔に、ロイはぞくりとして思わず一歩後ずさった。
「これからヒヨッコども相手に訓示を垂れるんですってね。」
その表情とは裏腹に楽しそうに言うハボックにロイは言葉を返せずに押し黙る。
「焔の錬金術師サマからお言葉を頂いて感激して泣いちまうんじゃないんスか。」
「ハボック…」
「アンタも嬉しいでしょ、ピーピー懐かれて。」
「ハボック、バカなことを…」
ロイがそう言った途端、ハボックの長い腕がぐっと伸びてロイの首を鷲掴みにした。
「ハボ…っ」
そのままぐいと引き寄せられて一瞬息が詰まる。
「アンタ、オレのことなんだと思ってんだよ。」
噛み付くように口付けられて、ロイは思わず身を捩った。
「ハボっ、やめ…っ」
「オレの気持ちなんて判ろうともしないでっ」
ハボックの腕から逃れようとしたロイは、ハボックに脚を絡められて縺れるように後ろに倒れこんだ。そのまま唇を
塞がれて、ロイは弱々しくハボックの胸を叩いた。口中を乱暴に弄られて涙が滲む。気がついた時にはズボンの前
を寛げられて、ハボックの大きな手がロイの中心を握り締めていた。
「ひあっ…」
ハボックの腕を掴んで放させようとするがやわやわと揉みしだかれて、ロイの体から力が抜けていく。
「あ、あ…やだっ…ハボっ」
ハボックはロイのズボンに手をかけると下着ごと一気に引き摺り下ろした。とろりと蜜を垂らして立ち上がるロイ自身を
目にしてにやりと笑う。ロイ自身を扱きながら、零れる蜜を塗りこめた蕾へと指を沈めた。くちゅりといやらしい音がして
ひくつく蕾がハボックの指を飲み込んでいく。ぐちゅぐちゅとかき回してやればロイの体がびくびくと震えた。
「ああっ…んあっ…」
脚を突っ張って悶えるロイの蕾へ、沈める指を増やしていく。ぐいぐいと奥へと差し入れ、堅くしこった部分を乱暴に
擦ってやるとロイの体が大きく跳ねた。
「ひあっっ…やあっ…ハボックっ」
堅く反りたった中心から止めどなく蜜を零しながら悶えるロイを見下ろしてハボックは囁いた。
「こんな風にいやらしく腰を振っているところを見せてやりたいっスよ…」
冷たく見下ろしてくる青い瞳にロイはぽろりと涙を零す。
「いやだ、ハボ…やめ…っ」
「やめてなんて欲しくないくせに。」
「やっ…こんなのは…やだっ」
泣いて訴えるロイをハボックは暫く見つめていたが、唐突にロイの中から指を引き抜くと熱を持って震えている
ロイの中心をそのままに、ロイの衣服を整えてしまった。
「ハボ…っ?」
「嫌なんでしょ?」
ハボックはロイの蜜に濡れた指を舐めながら言う。
「だったらそのまんまでヒヨッコどもの前に立てば?」
「…っっ」
「きっとまたアンタのファンが増えますよ。」
その色っぽい表情を見せてやればね、そう冷たく言い捨てるとハボックはロイを置いて会議室を出て行ってしまう。
ロイは床に座り込んで、ただ呆然と閉じた扉を見つめていた。
執務室の扉を開けて中へ入ったホークアイはロイの様子がおかしいのに気づいて眉を顰めた。
「大佐、どうかされましたか?」
「中尉…」
そう呟いて顔を上げたロイが苦しげに唇を歪めたのを目にして、ホークアイはロイに駆け寄った。
「大佐!」
「…すまないが気分が優れないんだ。今日の予定はキャンセルしてくれないか。」
ロイの言葉にホークアイは一瞬逡巡したが、すぐに頷いた。
「それと、ハボック少尉に私を家まで送ってくれるようにと…。」
「判りました。」
ホークアイはロイをそのままに急いで執務室を出て行った。
ハボックの席にその主がいないのに眉を顰めてホークアイは司令室を出て行く。背の高い部下を探して歩き回る
ホークアイの目に、休憩室で煙草の煙を燻らせる金色の頭が見えた。
「ハボック少尉!」
呼ぶ声に振り向くと、ハボックは煙草の火を消して立ち上がった。
「なんスか、中尉。」
仕事をサボっていたことなど悪びれもせず、そう言うハボックにホークアイは小さくため息をついて口を開いた。
「大佐の体調が優れないようなの。悪いけど、家まで送ってくれる?」
その言葉にハボックが僅かに目を瞠る。
「これから新任の下士官達に訓示を垂れるんじゃなかったんスか?」
「その予定だったけど、それどころじゃなさそうだから。」
表情の窺えない青い瞳を見上げてホークアイは言った。
「大佐の様子次第では今日は戻らなくてもいいわ。早く元気になってもらわないと困るの。」
暗に看病してこいと言われているのだと察して、ハボックは肩を竦める。ホークアイはハボックの腕を叩くと「お願いね」
と言い置いて、ロイの今日の予定をキャンセルすべく走り去った。
「大佐。」
執務室の扉を開けて中へ入ったハボックは椅子に座り込むロイの様子に顔を顰めた。
「中尉にアンタを家まで送り届けろって言われたんスけど。」
ハボックにそう言われて、ロイはのろのろと立ち上がった。途端に転びそうになるロイの体をハボックが咄嗟に支える。
ハボックの手が触れた途端、びくんと跳ね上がる体に、ハボックは目を瞠った。
「アンタ…」
泣き出しそうに歪んだ黒い瞳に情欲の炎を見つけてハボックは息を飲んだ。唇を噛み締めるとロイの体を横抱きに
抱え上げる。
「ハボっ」
「調子、悪いんでしょ。とっとと帰りますよ。」
気を失ったふりでもしといてください、と言って、ハボックは執務室の扉を蹴り開けるとぎょっとする面々を尻目に足早に
司令室を後にした。そのまま駆ける様に廊下を通り抜けると、警備兵に回させた車の後部座席にロイを寝かせ、運転席
に座ると急いで車を走らせる。ロイの家の前に滑るように車をつけるとロイを抱え上げて家に入り、ロイを寝室のベッド
に横たえ、再び外へ出ると車を裏へ回した。家の中へ戻って寝室へ行けば、ロイが体を丸めるようにして目を閉じていた。
「たいさ…」
ベッドに腰掛けてロイの髪を撫でれば、ロイの体がびくんと揺れる。ロイは横目でハボックを見上げると搾り出すように
して言った。
「お前はこんな状態の私を他のヤツの目に晒してもなんとも思わないのか…?」
「たいさ…」
「お前にとってその程度の存在ってことか?」
「たいさ…っ」
ロイの言葉にいたたまれずハボックはロイの体をかき抱いた。
「私はお前以外の誰にも見られたくな…っ」
噛み付くように口付けられてロイの言葉が途切れる。深く深く口付けられて飲み切れない唾液がロイの唇から零れた。
「ゴメンなさい…っ、オレ…っ」
ハボックはロイの体をぎゅっと抱きしめて囁く。
「オレ、嫌だったんだ。あんなふうにアンタのこと憧れの目で見られんのも噂されんのも。あいつらなんかに渡せない、
オレのもんだって言いたくて…っ」
「他のだれがどんな目で私を見ようとも噂をしようとも、そんなものは私にはとどかないよ、ハボック…」
黒い瞳が真っ直ぐにハボックを見つめながら囁いた。
「お前のその青い瞳だけだ…。」
「…っっ」
小さく息を飲んでハボックはロイを抱きしめた。ハボックの胸の奥に重たく沈んでいた嫉妬と言う塊りがゆっくりと溶け
出していく。代わりに暖かいものがじんわりと広がっていった。
「たいさ…たいさがスキです…」
そう呟けばロイの手がくしゃりとハボックの髪をかき抱いた。ロイに引き寄せられるままに唇を重ねていく。ハボックは
ゆっくりと圧し掛かるようにしてロイをベッドに押し倒した。唇を重ねたままロイの下肢を覆う布を剥ぎ取っていく。とろり
と蜜を零す中心に指をかければ、ロイの唇から甘い吐息が零れた。片脚を抱え上げるようにしてロイの中心を口に含む。
「んあっ」
ロイが上げた声に気をよくしてハボックはぴちゃぴちゃと舌で嘗め回した。先端を舌先で押しつぶすようにすれば、ジワリ
と滲んでくる蜜を舐め、つつつと棹に沿って舌を滑らせた。口の中にくわえ込みじゅぶじゅぶと唇で擦り上げる。
「んっ…んくっ…ふ…」
ぴくぴくと体を震わせながら、声を抑えようと掌で口を覆うロイを見てハボックは体を起こすとロイの手を口元から引き
剥がした。
「声、出した方が楽っスよ。」
「あっ…だって…っ」
恥ずかしい、と真っ赤になるロイが可愛いとハボックは思う。腕の中の人が自分のものだと見せびらかしたいと思うと
同時に誰にも見せずに大事にしまっておきたいとも思う。ハボックが手の中のロイ自身を乱暴に扱けば、ロイは喉を
仰け反らせて熱を放った。
「あああっっ」
荒い息を吐くロイの耳元にハボックが唇を寄せる。
「気持ちよかった?」
そう囁きながら耳の中へ舌を差し入れた。ぴちゃりと音を立てて舐めるとびくんと体を震わせるロイにハボックはくすりと
笑った。
「どこもかしこも感じやすくてカワイイ…」
そうハボックが囁くとロイが薄っすらと目をあけて睨んでくる。その赤くなった目尻にそっとキスをおとして、ハボックは
ロイの脚を抱え上げた。ひくひくと蠢く蕾へ顔を寄せると尖らせた舌でそっとつついた。
「ひっ」
ロイが思わず腰を浮かすのをいい事にさらに押し開くと奥へと舌を這わせる。
「ひあっ…あっ…ああっ」
ちゅぷちゅぷと音を立てて這い回る舌にロイの体がぴくぴくと震え、熱を取り戻したロイ自身からとろとろと蜜が零れる。
「あ、あ…も、ヤダ…っ」
しつこく舌を差し込まれてロイの喉から嗚咽が零れた。
「ハボック…ハボっ…」
体を起こして、何度も名前を呼んでくるロイの顔を覗き込めば、ロイが腕を差し伸べてハボックにしがみ付いてきた。
「ハボ…」
そんなロイの仕草に堪らない愛しさを感じて、ハボックはロイの両脚を押し開くとしっとりと濡れた蕾へ己を宛がい、
ぐいと腰を進めた。
「あ、あ、あ…」
熱い質量に押し開かれて、息をするのも儘ならない。ひくんと震える唇を強引に塞がれて、ロイは息苦しさにハボック
の背に回した腕に力を込めた。空気の代わりにハボックの熱い吐息がロイの口中を満たす。ふと意識が遠のいた
瞬間、唇が解放されて空気がなだれ込んできたと思ったと同時に強く突き上げられて、ロイは悲鳴を上げた。
苦しいのとそれを上回る快感がロイの体を駆け巡り、もう、まともに考えることが出来なかった。ただ、ハボックに
揺さぶられるままに体を震わせ、嬌声を上げ続ける。何度も熱を吐き出して、蕩けきった下肢をかき乱されて、ロイは
何もかも判らなくなっていった。自分を埋め尽くすハボックの熱と、それが与える快感だけが全てになり、ロイは
その最奥にハボックの熱を受け入れていく。何度も内側を濡らされて、そこから得られる快感にあられもない声を
上げて乱れるロイに、ハボックは例えようのない愛しさを感じるのだった。
2006/9/9
拍手リク「新入りの下士官にモテモテのロイを見て、イライラしてつい自分達の関係をバラしたくなってロイにたしなめられて、ムカっとしてロイを襲うハボ」
でした。下士官にモテモテ…なのか、コレ。書いてからもっと具体的にモテモテにすれば良かったとちょっと後悔しております。でも、一度書き上げちゃうと
書き直せないもんで〜。相変わらず、リク、ど真ん中に命中できない私…。すみませんです(汗)